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やってきたのは

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 私が皆様に手紙を書いた一週間後。

 お兄様が、辺境伯領にやって来ました。

 え?手紙を出して一週間ですよ?
馬で五日かかるはずでは?

「お、お兄様?大丈夫ですか?」

「・・・婚姻証明書だ」

 お兄様は懐から、王家の封蝋がされたそれを取り出しました。

「あ、ありがとうございます。まさか、これのためにこんな無茶をされたのですか?お兄様に何かあったらどうするのです!ご自分のお立場をお考えください」

 お兄様は私のお兄様で子爵令息ですが、同時にラナリス王女殿下の婚約者で、未来の国王陛下なのです。

 どう見ても、強行軍で来られましたわよね?

 証明書はドレスと一緒でも良かったのです。

 別にあのご令嬢に信じていただけなくても、私は言い負けたりしませんのに。

「とにかく、こちらへ。座ってお休み下さい」

「・・・大丈夫だ。これでも体は鍛えている」

「そんなことは分かっております。ですが、それと私がお兄様を心配なのは別の話です!」

「・・・すまん」

 そんな私たちの会話を、ユリウス様は目を丸くして聞いていらっしゃいます。

 なんだか随分と、驚かれているみたいですわ。

「ユリウス様?」

「え、あ、ああ。ヒルトがミリムに言い負けるとは思わなくて。意外とはっきり言うんだな」

 ああ。納得です。
私を大人しい性格だと思われていたのですね。

「そういう性格は、お嫌いですか?」

 お嫌いなら、少し控えるようにしなければなりません。

 もう婚約どころか婚姻が成ってしまったのですから、これから少しでもユリウス様の好みの女性になれるよう努力しなくては。

「いや、驚いただけだ。辺境伯夫人が自分の意見も言えないのでは困る。やはりミリムは素晴らしいな。君を妻に迎えて良かった」

「兄である僕の前で惚気るな。チッ。阿呆さえいなければ、まだ嫁にやらずに済んだものを」

「発言が父親だぞ、ヒルト。だがまぁ、気持ちは理解る。辺境ここは遠いからな。国王になったら、中々会えなくなるだろう」

 そうですね。
ユリウス様が参加されなければ、夜会なども参加できませんし、そうなるとお兄様やお父様お母様とお会いする機会は減りますね。

「はぁ。まぁ、あの馬鹿よりはお前の方がマシだから紹介したんだ。ミリムがセルフィーを気に入っていたら、隣国に嫁にやることになっていたしな」

「結局、セルフィーは婚約者はどうしたんだ?」

「問題ない。ジャグリング公爵家のセシリア嬢と婚約した」

「えっ?」

 ちょっと待ってください!
そんな話、聞いてませんわ。

 しかも、そのセシリア様は、先日十歳になられたばかりですのよ?

 セルフィー殿下は、お兄様と同い年のはずですわよね?

 問題、ありまくりですわ!
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