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妹の誤算

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「お母様っ!どうしてこんなことをしなきゃいけないのっ!」

 王宮から戻った途端に喚き散らすイザベリーナに、お母様は紅茶のカップをゆっくりとテーブルに戻した。

 ちなみに私は、口に入れたばかりのクッキーを味わっていたので、イザベリーナをチラリと見ただけだ。

 うん。
このクッキー美味しいわ。

「酷いわっ!お姉様ってば、私がアーロン様に好かれてるからこんな意地悪するのね!お母様っ!聞いてる?」

「聞いてるわよ。で、何が意地悪なの?」

「だって、王宮に行ってもアーロン様とお茶も飲めないのよ!ずーっとお勉強ばっかり!」

「それのどこが意地悪なの?」

 お母様が首を傾げる。
ついでに私も首を傾げた。

 淑女教育と王子妃教育に行ってるのに、アーロン様とお茶をする暇があるわけないじゃない。

「お姉様はアーロン様に好かれた私が嫌いだから、私とアーロン様を会わせないようにしてるのよっ」

「なんでそんなめんどくさいことしなきゃならないのよ」

 アホらしい。
大体、アーロン様と婚約したんだから、勉強しなきゃならないのは当たり前でしょ。

「イザベリーナ。貴女はアーロン殿下と婚約したのよ?」

「そっ、そうよ!お姉様じゃなく私がアーロン様の婚約者なんだから!」

「ええ、そうね。つまりは王子妃になるの。勉強しなきゃ、婚約者の座を下ろされるわよ?」

「え?」

 ぽかんとした顔をしているけど、え?分かってなかったの?

「私もアーロン殿下と婚約してた時は、王宮で王子妃教育を受けていたわよ?」

「え?」

「学園卒業までに、王子妃教育は終えないと、次の王太子妃教育を受けられないわよ。頑張ってね」

「え?」

 私は我儘放題のイザベリーナを面倒くさいとは思っているけど、今回アーロン殿下との婚約を奪ってくれたことに関しては感謝している。

 だから、応援してあげたいと思う。

 それに王子妃教育はともかくとして、公爵令嬢として淑女教育は必要だし、我儘なイザベリーナにはちょうどいいんじゃないかしら。

 チラリとお母様を見ると、目が合って頷いてくれる。

 良かった。お母様も同じ考えなのね。

「イザベリーナ。ある程度勉強が進めば、お茶会のしきたりも学ぶから、殿下とお茶をする機会もあるわよ。私が出来てたこと、もしかして出来なかったりするの?」

「なっ・・・そんなことないわっ!できるもん!」

 意地っ張りなイザベリーナなら、私が出来たと言えばムキになるとは思ったけど、本当にこの子が単純で良かったわ。

 バタバタと部屋を出て行くイザベリーナを見送りながら、お母様と微笑み合った。

「三年も頑張れば、矯正されるわね。良かったわ。王宮の教育なら一流ですもの」

 確かに王宮の教師は厳しいから、イザベリーナの我儘も矯正されそうね。

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