転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな

文字の大きさ
上 下
66 / 88
ヒロインの攻略対象

婚約者の願い《セシル視点》

しおりを挟む
『必要冒険者ランク:B
 カテゴリー:調査
 場所:アルゴリアと思われる
 内容:行方不明者の数が増えている。原因を調査し報告せよ』
 
 依頼書の内容を見ただけでは、何故アルゴリアという名前が出て来ているのかてんで分からない。
 しかし、これはいつものことである。
 というのは、依頼書に書き込むことができる文字数が非常に少ないことが原因だ。
 紙が勿体ないというのも一つの理由だけど、冒険者ギルドは同じ紙を何枚も準備する必要があるのだから仕方ない。
 最低でも依頼ボード、各窓口受付の担当、依頼を受けた冒険者に渡す分が必要なのだ。
 冒険者に渡す分が何枚まで膨らむか分からないし、渡すたびに書き写しているという話をパウルから聞いたことがある。
 
 つまり、何が言いたいのかというと「依頼の内容を説明するために、パウル達が常駐している」ってわけだ。
 そんなわけで、彼へ質問を投げかける。
 
「パウルさん、人さらいって今にはじまった話じゃないですよね?」
「その通りです。衛兵達が治安維持にあたっておりますが……」
「街中での行方不明者が増えているのですか?」
「いえ、郊外に出た者の数が増えています」
「それがアルゴリアと繋がるんですか?」
「はい。再度調査をすることをお勧めいたしますが、ギルドが掴んだ情報によりますと、アルゴリアへ連れ去られた者が増えていると噂されています」

 ふうむ。
 アルゴリアはかつて栄えた街の跡地だ。現在は廃墟になっていて、人が暮らしていくには難しい。
 何しろ、過去に作られた広大な地下にモンスターが住み着いていて危険度が高いんだよね。
 冒険者にとってはお世話になる場所で、彼らが夜を明かす為に地上部分へ簡易的な小屋が準備されていたりする。
 
「んー。野盗がアルゴリアに巣くうとは考え辛いですね」

 冒険者は野盗より屈強だ。それにモンスターもいるわけだし……野盗がわざわざアルゴリア遺跡に居を構えるメリットがない。

「そうですね。ひょっとすると(野盗が)深層にいるのかもしれませんが……冒険者の方々でも進むのが困難な場所に野盗など考えられません」

 ん、待てよ。

「ねーねー。難しいお話はよく分からないぞー」
「あ、すまんすまん」
「アルゴリアってところに行けばいいんでしょー。じゃあ、すぐに向かおうよー」
「ちょっと待ってくれ。今やっと考えが整理できたんだよ」
「えー」
「この調査依頼。相当な危険が伴うかもしれない」
「別にいいよー。バルトロとわたし……ついでにイルゼもいるもん」

 あ……。
 すっかりいつもの冒険者モードで物事を考えていたよ。
 地形を易々と変えてしまうプリシラとイルゼがいて、強いモンスターが出るんじゃないかなんて危険性を懸念する必要なんてどこにもなかった。
 
 でも、一応聞いておくか。
 
「パウルさん。今回で調査に向かう冒険者パーティは何組目ですか?」
「さすがバルトロさん、鋭いですね。あなた方で十組目です」

 冒険者ギルドの職員は聞かれなければ何も語らない。
 聞いても教えてくれないこともあるけどね。

「帰った人達は?」
「五組です。当初どこに原因があるか探って未発見に終わったパーティ。アルゴリアに原因があると突き止めたパーティ。そしてアルゴリアの浅い層だけを探索したパーティです」
「無難にこなした人達と自分達の実力以上に深い階層に入らなかった人たちが戻ったってわけかな」
「はい。冒険者とは自らの実力を正確に把握する能力が求められますから。バルトロさん、あなたはそういう意味で一流と私は思っています」
「ありがとう。聞きたいことはだいたい聞けたよ。行ってくる」
「ご武運を」

 パウルは深々と礼を行う。
 右手をあげて彼に応じ、俺とプリシラは冒険者ギルドを後にするのだった。
 
 ◆◆◆

 冒険者ギルドを出た俺は、冒険者向けの服屋や武器屋を巡りアルゴリアと行方不明者のことについて店主や店に来ていた冒険者達に聞いて回った。
 ダメ元で聞いてみたけど、いくつかの情報を得ることができる。
 最も、プリシラ用の少しお高めのローブを購入したから……情報料としては高くついた。
 でも、彼女が喜んでいたから良しとしようじゃないか。
 
 この後、露天を回って噂話の収集にあたるが、情報が錯綜していて却って混乱してしまう。

「次はどこにいくのー?」

 青と赤のピアスを購入しご機嫌なプリシラが俺の服を引っ張る。
 ピアスは鳥の頭をモチーフとしていて、首元に当たる部分に赤色の綺麗な石が取り付けられていた。
 青色のピアスもデザインが同じで、石の色だけが違う。
 
「そうだなあ。そろそろ酒場に行くか」

 陰ってきた日へ目を細め呟く。それと同時に腹がぐううと鳴った。

 そんなこんなで、いつもの行きつけの酒場でも情報収集を行う。
 経験上、ここでいろいろ聞いて回るのが一番情報が集まるのだ。
 グインはいるかなあと少し期待していたんだけど、残念ながら会うことはできなかった。
 でも、そのうち彼は俺の自宅を訪ねて来てくれるはずだ。
 俺の畑が短期間で完成したことを驚く彼の顔を見る時まで、会うのを楽しみに待っておくとしよう。

 料理を注文し、酒場のマスターに話を聞いてみると予想通りまとまった情報を聞くことができた。
 マスターにすかさずお酒を注文しようとしたプリシラへ「めっ」してリンゴジュースを頼む。
 俺? 俺はもちろんエールを飲むよ?
 だって、一日中歩きまわったんだもの。汗をかいたらエールだろ。
 
「バルトロだけずるーい」
「我慢してくれ。魔族の社会ではどうか分からないけど、ここでは君くらいの年齢だとお酒は出せないんだよ」
「ぶー」

 膨れているプリシラだったけど、料理が到着すると目を輝かせる。
 「おいしそー」と口元から涎が出そうになって、スプーンとフォークを握りしめ俺が料理を取り分けるのを待っていた。
 
「ほら」
「やったー」

 ちょうどその時、リンゴジュースとエールも運ばれてきてプリシラが料理より先にジュースに口をつける。
 
「おいしー」
「そいつはよかった」
「うんー」

 にへえと口元を緩めながら、プリシラがシチューにパンをつけてほうばった。
 
「これもおいしー」
「そうか」
「これもー」
「そうか」
「これもこれもー」
「そうか」

 なんて会話を交わしていたら、あっという間にお腹いっぱいになる。

「よっし、じゃあ。イルゼとの合流場所に行くか」
「うんー」

 イルゼとは宿で落ち合う約束をしていたんだ。
 依頼のことも彼女に伝えないとな。
 
 ◆◆◆
 
「え……ここに泊るの……?」
「いっぱいお部屋がありそうだけど、イルゼはどこにいるのかな」

 あんぐりと口を開けたまま上を見上げる。
 この街にこんな宿があったなんて驚いた。
 建物は六階まであり、赤レンガの洒落た外装にアーチがふんだんに使われた窓。
 窓にはちゃんとガラスがハマっていて高級感をアピールしている。
 一階部分の窓はステンドグラスになっていて、宿の前を通る人の目を楽しませていることだろう。
 
 一言で言うと、この宿は超高級店だ。
 
 こんなところに宿泊するととんでもないお金を取られてしまうぞ。
 払えないことはないだろうけど、生活費が一気に吹き飛ぶ。断固拒否だ。
 
 ある種の決意をもって、宿の扉をくぐる。
しおりを挟む
感想 59

あなたにおすすめの小説

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
<あなた方を相手にするだけ、時間の無駄です> 【私に濡れ衣を着せるなんて、皆さん本当に暇人ですね】 今日も私は許婚に身に覚えの無い嫌がらせを彼の幼馴染に働いたと言われて叱責される。そして彼の腕の中には怯えたふりをする彼女の姿。しかも2人を取り巻く人々までもがこぞって私を悪者よばわりしてくる有様。私がいつどこで嫌がらせを?あなた方が思う程、私暇人ではありませんけど?

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

【完結】婚約破棄され毒杯処分された悪役令嬢は影から王子の愛と後悔を見届ける

堀 和三盆
恋愛
「クアリフィカ・アートルム公爵令嬢! 貴様との婚約は破棄する」  王太子との結婚を半年後に控え、卒業パーティーで婚約を破棄されてしまったクアリフィカ。目の前でクアリフィカの婚約者に寄り添い、歪んだ嗤いを浮かべているのは異母妹のルシクラージュだ。  クアリフィカは既に王妃教育を終えているため、このタイミングでの婚約破棄は未来を奪われるも同然。こうなるとクアリフィカにとれる選択肢は多くない。  せめてこれまで努力してきた王妃教育の成果を見てもらいたくて。  キレイな姿を婚約者の記憶にとどめてほしくて。  クアリフィカは荒れ狂う感情をしっかりと覆い隠し、この場で最後の公務に臨む。  卒業パーティー会場に響き渡る悲鳴。  目にした惨状にバタバタと倒れるパーティー参加者達。  淑女の鑑とまで言われたクアリフィカの最期の姿は、良くも悪くも多くの者の記憶に刻まれることになる。  そうして――王太子とルシクラージュの、後悔と懺悔の日々が始まった。

性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~

黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※ すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!

処理中です...