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アメジストの姫君

アメジストの姫君《セシル視点》

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 我が国フォレスト王国には、2つの公爵家がある。
 1つは王弟である父上が公爵を務めるサードニクス公爵家。
 もう1つはダートン公爵家だ。

 そのダートン公爵家が婚約を求めている相手が、ビスクランド伯爵家のご令嬢だと知って慌てた。

 ビスクランド伯爵家は、フォレスト王国内でも有名な資産家だ。
 伯爵夫人の手がけるブランドは王国内だけでなく他国でも人気なほどだ。

 そのビスクランド伯爵家で、溺愛されているご令嬢、それがアリス・ビスクランド嬢だ。
 銀の髪に紫色の瞳をしていて、その愛らしさから『アメジストの姫君』と呼ばれているご令嬢。

 僕の初恋の相手だ。

 母親に連れられ行った夫人ブランドの店で、退屈そうにしていた女の子、それがアリス嬢だった。
 彼女のことが頭から離れなくなり、帰りの馬車であの女の子は誰かと母親に訊いた。

 僕の様子から察した母親が、伯父である国王陛下にまで、僕がアリス嬢に一目惚れしたと教えてしまった。
 その時は、ものすごく恥ずかしくて、なんて事を言うのだと思っていたが、今となっては母親に感謝しかない。

 僕の家は、父が王弟であることもあり、ダートン公爵家よりは格が上だ。
 もちろん彼女がダートン子息を望めば仕方ないが。

 だけど、彼女がダートン家の婚約申し込みを拒もうとしていると伯父上から聞いた。それなら、サードニクス公爵家ならダートン公爵家に文句を言わせることもない。

 そして、こんなチャンスは2度とない。

 だから、伯父上と父上にお願いした。
アリス・ビスクランド嬢と婚約したいと。

「はじめまして。セシル・サードニクスと申します」

 挨拶した僕に、どこかそっけないアリス嬢の様子に、僕は内心ショックを受けた。

 もしかしたら、第1王子との婚約を望んでいたのかもしれない。

 伯爵家だが、ビスクランド伯爵家なら王家との婚約も有利に進む。

 そう思って、訊ねてみると、会ったこともないと言われた。
 会ったことはないかもしれないが、従兄弟の第1王子は見目も麗しいし、その立場からもご令嬢たちに人気だと聞く。
 そう言った僕に返されたのは、

「セシル様もかっこいいですね」

という予想外の言葉だった。

 いや。見目は悪くはないと自負してはいるが、まさか一目惚れした相手から言われるとは。

 しかも伯父上に一目惚れしたことをバラされてしまった。

 だけど、伯父上にバラされたことで、それまで素っ気なかったアリス嬢から、婚約して欲しいと言われた。

 経緯なんてどうでもいい。
一目惚れで、しかも初恋の相手なんだ。

 この日、僕はアリス・ビスクランド伯爵令嬢の婚約者となった。



 
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