婚約破棄を望むなら〜私の愛した人はあなたじゃありません〜

みおな

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第3章

卒業パーティー本番〜サイード編〜

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「次は、僕と踊ってもらえるだろうか?」

 差し出された手に手を重ねようとしたら、横からハルトナイツに抱き寄せられた。

「サイード殿下。彼女は僕の婚約者だ」

 そう。
ファーストダンスを婚約者であるハルトナイツと踊り終えた後、申し込んできたのはサイードだった。

 もちろん、サイードもファーストダンスはリアーネと踊っている。

「ハルトナイツ様?卒業パーティーのダンスですわよ?それに、サイード殿下も婚約者がいらっしゃいますわ。そんな言い方はリアーネ様に失礼ですわ」

 何故、サイードが私にダンスを申し込んできたのかはわからないが、婚約しようと結婚しようと、他の方とダンスを踊ることはある。
 同じ人と2回踊ることは、婚約者以外ないけれど。

 だから、私はサイードの申し出に手を重ねようとしたわけだ。

「ヴァレリア嬢は近日、レンブラント皇国に赴かれるのだろう?これでお会いすることもなくなるかもしれない。最後に、駄目だろうか?」

「駄・・・」

 駄目と言いかけたハルトナイツが、私の視線で、ピタリと口を閉じた。

「ハルトナイツ様?ハルトナイツ様もこれでカムシーナ王国を辞されるのですから、皆様と友好を深めて下さいませね?」

「わ、わかった。オスカール嬢、私と踊っていただけますか?」

「はい、よろこんで」

 ハルトナイツは私の圧に気圧されるように、リアーネにダンスを申し込んでいる。

 独占欲も結構だが、ここはもう社交界のようなものだ。皇太子殿下、未来の皇帝になる者として、他国のご令嬢ご婦人になる方々との交流は大切である。

 リアーネがハルトナイツに手を重ねるのを見てから、私もサイードの手に自分のそれを重ねる。
 
 そういえば、婚約していたのに、サイードと踊ることは結局なかった。

「すっかり、尻に敷いているのだな」

 苦笑を混じえたサイードの言葉に、私は心外だという顔をする。

「サイード様こそ、リアーネ様にキチンと躾けられたご様子ですこと」

 王族に対して不敬な物言いだが、これも学生最後のことだと思って、勘弁してもらおう。

「手厳しいな、ヴァレリア嬢は。君が婚約者からおりたとき、僕には王族としての価値も何も残らない、そう思ったよ」

「手元に残って下さったリアーネ様に感謝ですわね」

「ああ。彼女はどこか君に似ていて、それでいて僕のことを本当に想ってくれている。大切にしたいと思うよ」

 リアーネは、私と同じ転生者だ。
そのどこか似ているところを感じるのだろう。
 だが、政略的婚約だった私と違い、リアーネはサイードのことを好いている。

「ヴァレリア嬢、ありがとう。君のおかげで僕は自分の愚かさに気付かされた。どうか、ハルトナイツ殿下と幸せに」

「ありがとうございます。サイード殿下もリアーネ様とお幸せに。結婚式には呼んでくださいね」

 曲が終わり手が離れる時、私は婚約してから今この時までで初めて、心からサイードに笑顔で微笑いかけたー

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