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第1章
攻略対象公爵家次男
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「アゼルお兄様」
私は兄であり乙女ゲームの攻略対象の1人である、ヴァレリア公爵家次男に声をかけた。
この時点で、兄はまだヒロインとは出会っていない。
嫡男である兄アベルへの劣等感を密かに育てている最中ではあるが、とりあえずはまだ優秀な兄と妹を憎むところまではいっていない。
「なんだ?ヴィヴィ」
「お茶にお付き合い下さいませんか?」
「婚約者のサイード王子はどうした?」
「何やらご予定が出来たみたいですわ。アゼルお兄様、ご迷惑かしら?」
可愛く小首を傾げて尋ねると、アゼルは小さく、「いや」と答えた。
元々、ヴァレリア公爵家の人間は、ヴィヴィのことを溺愛している。
唯一の娘であるということの上に、ヴィヴィの容姿はとても美しい。
幼い頃は、天使や妖精、年頃になってからは女神と呼ばれるほどだ。
ヒロインに陥落するまでは、アゼルも他の家族同様にヴィヴィを溺愛していた。
それを理解っている私としては、可愛く振る舞えば兄が断らないことは分かっていた。
「ありがとうございます、アゼルお兄様」
パッと抱きついて、それから思わずやってしまったという顔で、すぐに離れる。
「ご、ごめんなさい。はしたない真似をしてしまいましたわ」
頬を赤らめ、恥ずかしそうに俯けば、アゼルも顔を赤くする。
「いや。構わない・・・かわいい・・・」
最後の可愛いは小声だったが、私はちゃんと聞いていた。
本当、ちょろいのね。
私は攻略対象たちが好きではない。あんな2流、好きになる要素がない。
だけど、悪役令嬢ヴィヴィ・ヴァレリアにとって、アゼル・ヴァレリアは攻略対象ではなく兄だ。
なら、ヒロインなんかに攻略されないようにすれば良い。
兄に断罪されないために、妹にメロメロにしておけばいい。
ちょっと乙女ゲーム内でヒロインがやっていたように甘えて、恥ずかしそうにすれば、あっさりとアゼルは眦を下げた。
本当にちょろ過ぎる。
こんな手で、ヒロインに傾倒して、挙句に妹を断罪するのかと思うと、張り倒したくなる。
すでに、婚約者の第2王子はヒロインと出会っている筈だ。
まぁ別に、あの婚約者には全く興味も愛情もないので、ヒロインに差し上げても構わない。
私にちょっかいを出そうとさえしなければ、何なら2人が婚約出来る様に手を貸してやってもいいくらいだ。
だから。アゼルや他の攻略対象たちを攻略はさせない。
逆ハーレムルートなんか目指されては困るのだ。
私自身もそうだけど、攻略対象たちには全員婚約者がいる。
誰かのモノを奪って幸せになろうなんて、あつかましいにも程がある。
(まずはアゼルからね)
私はにっこりと微笑んだ。
私は兄であり乙女ゲームの攻略対象の1人である、ヴァレリア公爵家次男に声をかけた。
この時点で、兄はまだヒロインとは出会っていない。
嫡男である兄アベルへの劣等感を密かに育てている最中ではあるが、とりあえずはまだ優秀な兄と妹を憎むところまではいっていない。
「なんだ?ヴィヴィ」
「お茶にお付き合い下さいませんか?」
「婚約者のサイード王子はどうした?」
「何やらご予定が出来たみたいですわ。アゼルお兄様、ご迷惑かしら?」
可愛く小首を傾げて尋ねると、アゼルは小さく、「いや」と答えた。
元々、ヴァレリア公爵家の人間は、ヴィヴィのことを溺愛している。
唯一の娘であるということの上に、ヴィヴィの容姿はとても美しい。
幼い頃は、天使や妖精、年頃になってからは女神と呼ばれるほどだ。
ヒロインに陥落するまでは、アゼルも他の家族同様にヴィヴィを溺愛していた。
それを理解っている私としては、可愛く振る舞えば兄が断らないことは分かっていた。
「ありがとうございます、アゼルお兄様」
パッと抱きついて、それから思わずやってしまったという顔で、すぐに離れる。
「ご、ごめんなさい。はしたない真似をしてしまいましたわ」
頬を赤らめ、恥ずかしそうに俯けば、アゼルも顔を赤くする。
「いや。構わない・・・かわいい・・・」
最後の可愛いは小声だったが、私はちゃんと聞いていた。
本当、ちょろいのね。
私は攻略対象たちが好きではない。あんな2流、好きになる要素がない。
だけど、悪役令嬢ヴィヴィ・ヴァレリアにとって、アゼル・ヴァレリアは攻略対象ではなく兄だ。
なら、ヒロインなんかに攻略されないようにすれば良い。
兄に断罪されないために、妹にメロメロにしておけばいい。
ちょっと乙女ゲーム内でヒロインがやっていたように甘えて、恥ずかしそうにすれば、あっさりとアゼルは眦を下げた。
本当にちょろ過ぎる。
こんな手で、ヒロインに傾倒して、挙句に妹を断罪するのかと思うと、張り倒したくなる。
すでに、婚約者の第2王子はヒロインと出会っている筈だ。
まぁ別に、あの婚約者には全く興味も愛情もないので、ヒロインに差し上げても構わない。
私にちょっかいを出そうとさえしなければ、何なら2人が婚約出来る様に手を貸してやってもいいくらいだ。
だから。アゼルや他の攻略対象たちを攻略はさせない。
逆ハーレムルートなんか目指されては困るのだ。
私自身もそうだけど、攻略対象たちには全員婚約者がいる。
誰かのモノを奪って幸せになろうなんて、あつかましいにも程がある。
(まずはアゼルからね)
私はにっこりと微笑んだ。
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