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帰還

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 窓から、すっかり暗くなった外を見つめる。

 ハルト様は何も言わずに、黙って私の手を握ってくれていた。

 門の外に馬車の音がするたびに、体がビクリと震える。

 その度にハルト様の手が「大丈夫だ」と言ってる気がした。

 ハルト様が見えて一時間近く経った時、ブロッサム伯爵家の門の前で、一台の馬車が停まった。

 門番が門を開け、誰かが馬車から降りてくる。

 私はハルト様の手を振り払うと、そのまま玄関の扉を大きく開けた。

「リリーっ!」

 街灯の灯りしかなくても、私がリリーを見間違えるわけがない。

 駆け寄ると、エミリオ殿下に支えられていたリリーが私に抱きついて来た。

「リラ!」

「リリー、良かった・・・大丈夫?痛いところない?」

「ん。大丈夫。助けてもらったから」

 私たちの声が聞こえたのか、家令が知らせたのか、お父様たちも玄関へと出てきた。

「リリー」

「良かった。良かったわ、無事で!」

「お父様、お母様っ!」

 両親に抱きしめられているリリーを見ているエミリオ殿下に、頭を下げた。

「リリーを助けていただき、ありがとうございました」

「いや、心配だっただろう?連絡できなくてすまない。ちゃんと犯人は取り押さえたから。ビブラート公爵、ギルクは大丈夫か?」

「ご心配痛み入ります、殿下。目覚めてはおりましたし、傷の具合も大したことはありませんでした。頭ですから、少しの間様子を見る必要はありますが」

「そうか。事件の詳細は明日、王宮にて話そう。リリー嬢も疲れていることだろう、休ませてあげて欲しい。ビブラート公爵も帰って、ギルクを安心させてやってくれ」

 エミリオ殿下の言葉に、ハッとする。
そうだ。ギルク様・・・それに意識不明だという御者の人は大丈夫だろうか?

「お気遣いありがとうございます、殿下。それでは私はこれで失礼させていただきます。ブロッサム伯爵、この詫びは後日必ず」

「詫びなど!ご子息が心配でしょうに、我が娘をお気遣い下さり、ありがとうございます」

 お父様の言葉に、私も頭を下げた。
今は当主同士の話。私が勝手に発言するわけにはいかない。

 でも、気遣ってくれたお礼は伝えたかった。

「いや、我が家の不手際だから当然のことだ。殿下方、私はこれで失礼させていただきます」

「ああ。あとでギルクを見舞わせてもらう」

「はっ」

 エミリオ殿下とハルト様に挨拶され、ビブラート公爵は帰られた。

 エミリオ殿下はリリーに「ゆっくり体を休めるように」と言い、リリーが素直に頷いている。

 その様子に目を丸くしている私の頭を、優しくポンポンと撫でると、ハルト様もエミリオ殿下たちと帰って行った。

「リリー、本当に良かった」

 私の呟きに、再びリリーが私に抱きついた。

 もうシスコンを面倒とか思わないわ。
そばにいてくれなきゃ。

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