上 下
30 / 37

異変への足音

しおりを挟む
 ハルト様や攻略対象たちの送迎が始まってから一ヶ月。

 クモリス公爵令嬢や、ビラック伯爵令嬢のイライラしたような視線を感じながらも、特別これといった事件はなく、過ぎていった。

 男性であるハルト様たちが一緒出来ない時は、他のご令嬢たちとも一緒にいるようにしたから、手を出せないようで、とりあえず視線が鬱陶しいだけだ。

 だから、私は油断していたのかもしれない。

 その日、私は教師から呼ばれていると教室の外から声をかけられた。

「ブロッサム妹。□○先生が職員室まで来いって」

 詳細を聞こうにも、声をかけて来た男子生徒はすぐに「伝えたからな」といなくなってしまった。

 仕方ないので、職員室に向かおうとしたら、ハルト様がやって来て一緒に行ってくれると言う。

 リリーを一人にするわけにはいかないから、一緒に行く?と聞いていると、今日の送迎当番のギルク様が現れたので、お任せすることにした。

「は?呼んだ?□○先生は今日はお休みだぞ?誰か先生方、リラ・ブロッサムを呼んだ方はいらっしゃいますか?」

 職員室で取り次ぎをお願いした私は、誰も私を呼んでいないという事実に固まった。

 どういうこと?お休み?
確かに□○先生と言っていたはず。

 釈然としないけど、私の隣にはハルト様がいてくださるし、リリーには今日はギルク様が付いている。

 一体、何がしたかったの?

 なんだか、モヤモヤする。
教室に戻って鞄を取ると、ハルト様と一緒に馬車へと向かった。

 リリーの鞄はなかったので、先に帰ったのだろう。

「それじゃあ、また明日」

「はい。ありがとうございました」

 お礼を言って、ハルト様が乗る馬車を見送る。

 ハルト様は、私が屋敷に入らないと立ち去らないから、頭を下げてから屋敷へと入った。

「ただいま」

「おかえりなさいませ、リラお嬢様」

「あれ?リリーは?」

 私が後から帰ったら、リリーはバタバタと迎えに来る。

 そして、行儀が悪いとお母様に叱られるまでがワンセットなんだけど。

「リリーお嬢様はまだお帰りではございません」

「そ、そう。どこか寄り道してるのかな」

 私は職員室に行ってたから、リリーより学園を出たのは三十分ほど後だ。

 あの塩対応のリリーが、ギルク様と寄り道なんて、と思ったけど、もしかしたらこないだの私のカフェへの寄り道に触発されたのかも。

 だけど、それが間違いだと知ったのは、部屋着に着替えて宿題を終えて・・・陽が沈む頃になってもリリーが戻らないと侍女から聞いた時だった。

「こんな時間なのに・・・ビブラート公爵家に連絡してちょうだい。今日はギルク様と帰ったはずなの」





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

転生聖女のなりそこないは、全てを諦めのんびり生きていくことにした。

迎木尚
恋愛
「聖女にはどうせなれないんだし、私はのんびり暮らすわね〜」そう言う私に妹も従者も王子も、残念そうな顔をしている。でも私は前の人生で、自分は聖女になれないってことを知ってしまった。 どんなに努力しても最後には父親に殺されてしまう。だから私は無駄な努力をやめて、好きな人たちとただ平和にのんびり暮らすことを目標に生きることにしたのだ。

最悪なお見合いと、執念の再会

当麻月菜
恋愛
伯爵令嬢のリシャーナ・エデュスは学生時代に、隣国の第七王子ガルドシア・フェ・エデュアーレから告白された。 しかし彼は留学期間限定の火遊び相手を求めていただけ。つまり、真剣に悩んだあの頃の自分は黒歴史。抹消したい過去だった。 それから一年後。リシャーナはお見合いをすることになった。 相手はエルディック・アラド。侯爵家の嫡男であり、かつてリシャーナに告白をしたクズ王子のお目付け役で、黒歴史を知るただ一人の人。 最低最悪なお見合い。でも、もう片方は執念の再会ーーの始まり始まり。

記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。

ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。 毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~

胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。 時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。 王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。 処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。 これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。

アズやっこ
恋愛
 ❈ 追記 長編に変更します。 16歳の時、私は第一王子と婚姻した。 いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。 私の好きは家族愛として。 第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。 でも人の心は何とかならなかった。 この国はもう終わる… 兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。 だから歪み取り返しのつかない事になった。 そして私は暗殺され… 次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。

婚約者が王子に加担してザマァ婚約破棄したので父親の騎士団長様に責任をとって結婚してもらうことにしました

山田ジギタリス
恋愛
女騎士マリーゴールドには幼馴染で姉弟のように育った婚約者のマックスが居た。  でも、彼は王子の婚約破棄劇の当事者の一人となってしまい、婚約は解消されてしまう。  そこで息子のやらかしは親の責任と婚約者の父親で騎士団長のアレックスに妻にしてくれと頼む。  長いこと男やもめで女っ気のなかったアレックスはぐいぐい来るマリーゴールドに推されっぱなしだけど、先輩騎士でもあるマリーゴールドの母親は一筋縄でいかなくて。 脳筋イノシシ娘の猪突猛進劇です、 「ザマァされるはずのヒロインに転生してしまった」 「なりすましヒロインの娘」 と同じ世界です。 このお話は小説家になろうにも投稿しています

転生した元悪役令嬢は地味な人生を望んでいる

花見 有
恋愛
前世、悪役令嬢だったカーラはその罪を償う為、処刑され人生を終えた。転生して中流貴族家の令嬢として生まれ変わったカーラは、今度は地味で穏やかな人生を過ごそうと思っているのに、そんなカーラの元に自国の王子、アーロンのお妃候補の話が来てしまった。

処理中です...