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来て良かった

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 教皇子息のエルガルドに付いて行った先は、特別室という個室だった。

 ここは貴族のみが通う学園だから、王族や高位貴族が申請を出せば使える個室がある。

 そりゃ個室なら席はあるでしょうよ。

 エルガルドについていく私たちに、ご令嬢たちの視線が絡みつく。

 攻略対象たちは全員身分が高い、いわゆる優良物件だ。

 高位貴族のご令嬢たちからすれば、自分たちこそ彼らに相応しいと思っていて、伯爵令嬢である私たちがそばにいるのが納得出来ないのだろう。

 それに、政略結婚を良しとしないこの国だからこそ、この学園でいるうちに彼らの恋愛対象になりたいはずだ。

 はぁ。
乙女ゲームではどうだったっけ。

 他のご令嬢からいじめられてる描写はなかったと思うけど、そりゃここはゲームじゃないんだから、ゲーム通りにはいかないわよね。

 ご令嬢たちの視線が嫌で、うんざりとした気持ちになる。

 これなら、リリーと別々に座った方がマシだったんじゃないかな。

 そう思っていた私に言いたい。

 少々の嫌な思いを我慢したくなるご褒美がそこにある!

 特別室には、攻略対象の面々がいた。

 うん。それは最初からわかってる。
君らが私のことをどうでもいいように、私も君らのことはどうでもいい。

 私は。何故かその部屋の離れた席で黙々と食事をしている推しを眺めた。

 まさかここに、ハルト様がいるなんて!

 来て良かった。

 最初の一年は男女のクラスは別々だから、入学式以降はほとんど顔を合わせることがなかった。

 攻略対象たちはリリーに会うために、よく私たちの前に現れてたけど。

 だから、久々に間近で見る推し!
尊い!

「ブロッサム嬢、コチラにどうぞ」

 エミリオ王子が、自分の隣の席の椅子を引いている。

 この場合のブロッサムって、リリーよね。

 ここで、座る場所が問題となる。

 特別室のテーブルは、十人が座れるようになっている。

 つまりは、五人五人が向かい合わせに座るタイプだ。

 そして攻略対象たちは、誰もがリリーの隣に座りたい。

 エルガルドは扉を閉めると、黙ってエミリオ王子の向かいの席に座った。

 おそらくは、誰がリリーの隣に座るか、前もって話し合っていたのだろう。

 エミリオ王子は、部屋奥側の右から二つ目に座っていた。

 ハルト様は、部屋手前の左側から二つ目の席だ。

 エルガルドの左隣にロキが座り、ギルクはエミリオの横に立っていた。

 多分、リリーが隣が私でないと!と喚くことを考えて、座ってないのだと思う。

 チラリと王子を見ると、エミリオ王子はハルト様を見ていた。

 その視線を受けたハルト様は、スッと立ち上がり、自分の左隣の席の椅子を引いた。

「リラ・ブロッサム嬢。こちらに」
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