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何もしないで

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「リラ。泣かないで。ね?」

 真っ赤に泣き腫らした目をした私を見たリリーは怒りからか顔を真っ赤にした。

 そのままコパー男爵家に走っていきそうな勢いだったので、私は慌ててリリーの手を掴む。

「ここにいて!」

 それを私がひとりになりたくないのだと判断したリリーは、宥めるように何度も背中を撫でてくれた。

 別れを受け入れたのは、私。
あの時、マルセル様に何を言っても駄目だと判断したのは、私。

 悲しかった。

 マルセル様のことを好きだったから、本当に悲しかった。

 でも、正直に話してくれたことは、良かったと思う。

 相手の人に告白する前に、別れを切り出したのは、マルセル様の誠実さだと思うから。

 だから、受け入れたの。

 せめて嫌な思い出になりたくなかった。

 マルセル様が思い出した時、交際できて良かったなって思う過去でいたいから。

 私の何がいけなかったのかな。

 家族以外で、初めてリリーじゃなく私を選んでもらえたのに。

 もっと尽くせば良かったのかな。

 それとも尽くしすぎて、ウンザリされたのかな。

 よく、わかんないや。

 分かるのは、私じゃ駄目だったってことだけ。

 やっぱり、前世が喪女じゃ恋愛のこういうとこ、よくわかってないのかな。

「リラぁ」

「大丈夫・・・今はちょっと大丈夫じゃないけど、でも大丈夫だから。だから、マル・・・コパー様に何か言ったりしないで。恋愛だもん。こんなことは普通にあることでしょ」

「でも、でもっ!」

「私のこと好きになってくれて、私ホントに嬉しかったの。この一年間、本当に幸せだったの。マルセ・・・コパー様のことを好きになれて、本当に良かったなって思うの。だから、コパー様にもそんなふうに思って欲しいの。私のこと好きになって良かったなって思って欲しい。だから、お願い」

 私、恋愛初心者で、全然うまく言えないけど、好きになって良かったって思える恋をして、今は確かに辛いけど、まだ十四歳だもん。そのうち失恋の痛みは消える。

 初恋は実らないって、前世でよく聞いたし、うん。きっと大丈夫。

 しばらくはちょっと辛いけど、ちゃんと笑えるようになるから。

「リラぁ・・・」

「もう。リリーまで泣かないでよ。あ、そうだ。時間できちゃったから、今週末に一緒にスイーツ食べに行ってくれる?」

「・・・行くぅ」

「その後、雑貨屋さんにも行こう。素敵なお店、見つけたんだよ」

 マルセル様と一緒に行くはずだったカフェに。雑貨屋に。リリーと行こう。

 だから、今日はたくさん泣かせて。


 
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