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主人たちが甘くて、使用人が胸焼けしそうな件

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「何を着ても、ルーナは美しいな」

 正式に婚約が成立して、十日。

 そう。

 まだ十日しか経っていないのだが、王太子となったラインハルトは、毎日・・・いや数時間数分数秒毎に自分の婚約者を愛でる。

 ドレスが似合う。髪型が可愛い。所作が綺麗だ。声が耳に心地よい。エトセトラ。エトセトラ。

 それを言われるたびに、ルーナも頬を僅かに赤らめ、嬉しそうにするものだから・・・

 王宮やヴァレリア公爵家で勤める使用人たちは、それはもう胸焼け気味である。

 いや。
主人たちが仲睦まじいのは、良いことである。

 そして、王宮と公爵家どちらの使用人たちも、婚約者を泣かせて喜ぶような拗らせ婚約者より、少々年上だが誠実で婚約者をとても大切にするラインハルトの方が好ましいと思っている。

 しかも、ルーナの初恋相手だという。

 使用人たちは自分たちのことのように、嬉しいと思った。

 だが、辺境伯として前線に立ち女気もなかったラインハルトのルーナに惚れていますオーラは、ちょっと・・・ほんのちょっとだけ控えめにして欲しいと思う。

 できれば二人きりの時・・・
いや、二人きりだとまだ婚約して十日だというのに、ラインハルトの理性が制御できないかもしれない。

 婚姻前にそんなことになれば・・・
ヴァレリア公爵が恐ろしいことになりそうだ。

 これは自分たちが我慢するしかない。
使用人たちは揃ってそう諦めた。

「まぁ!ラインハルト様ってば・・・でも嬉しい」

 ダミアンと婚約していた頃は、ほとんど笑顔らしい笑顔も見せることがなかったルーナ。

 それがあんなに嬉しそうな表情をしているのだから、王宮に勤める使用人たちも自分たちのことのように嬉しく思っている。

「まぁまぁ!今日も仲良しね」

 そこへ、王妃であるキャスリーンがやって来た。

 ダミアンのこともあり、王位を辺境伯と夫人にと考えていた国王夫妻だが、代わりに辺境伯となれる者がいないことで国王と王妃としての責務を全う中である。

 仮にも王太子が廃籍されて罪人として採石場に送られたことは、他国にも話は広がっているが、思ったより他国の反応は冷静だった。

 国王夫妻が即座に、ダミアンを廃籍したことも評価された。

 辺境伯としてのラインハルトの評価も元々高く、またルーナの評価も高いこともあって、王太子たちへの信頼も高いようだった。

 よって養子縁組はしていないが、ラインハルトは王太子となり、次期国王となる。

 それまでは今まで通り、キャスリーンとその夫が国王夫妻としてやっていくこととなっていた。
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