35 / 43
愚か者たちのその後④
しおりを挟む
どうしてこんなことになったのか。
ジェニッタは、掠れていく視界の中、ぼんやりと考えていた。
あの日。
旦那様から北の採石場行きを宣言されて、猿轡と縄で縛られたままここへ連れて来られた。
それもこれも、あのルーナが私のことを「許す」と言わなかったから。
私の娘であるアネッタを虐めたと言うから、頬を叩いただけなのに。
旦那様は、私のことを愛してくれていたはずなのに。
きっと、あのルーナが旦那様に嘘を吹きこんだんだわ。
ルーナの嘘に気付いた旦那様が、きっとすぐに「ルーナの嘘に騙されていた。アイツを家から追い出したよ。許しておくれ、愛しい人」と言って私を迎えに来てくれる。
そう思っていたのに。
採石場に連れてこられた初日。
石を運ばなかったからと食事を抜かれた私に、パンとスープをやるからと私を建物の奥の部屋に呼んだ男がいた。
与えたのがバレると困るからと、こっそり来てくれと言って。
ああ。
私の美貌に目が眩んだのね?
アネッタを産んだけれど、私は若い頃と体型も変わっていない。
私の愛は旦那様だけのものだけど、ダリルのように貢ぎたいというなら許可してあげてもいいわ。
ジェニッタは驕り高ぶり、自分の都合のいいように記憶を塗り替えていた。
ダリルは決して貢いでいたわけではない。
王族の毒牙にかかり、妊娠した途端に捨てられ、両親からも捨てられたジェニッタを、単にかわいそうだからと助けたに過ぎない。
ダリルは単にお人好しなだけであり、自分の稼ぎで助けられる範囲で、ジェニッタとアネッタを助けていただけだった。
そして自分の命が短いことを知り、彼女たちが生きていくのを見守ることを兄に願った。
とりあえずの生活費は自分の絵の代金で、あとは公爵家が後見となればどこか下位貴族の侍女として働けるだろう。
そう願ってのことだった。
それを、ダグラスに一目惚れしたジェニッタは大きな勘違いをした。
だから、男の誘いも自分が魅力的なためだと勘違いをしたのだ。
「な・・・にを・・・」
石造りの、冷たい部屋に入ったジェニッタは、文句を言おうと男に振り返り・・・
腹に激しい熱を感じた。
触れるとぬるりと手が滑り、足がふらついて冷たい石床にへたり込んだ。
見上げると男が、ジェニッタを憎々しげに睨んでいた。
「お前のせいで・・・」
ジェニッタは、何故見知らぬ男にそんな憎々しげに睨まれるのかが理解らない。
「死んで詫びろ!」
そう怒鳴った男が、ジェニッタに馬乗りになり胸にナイフを突き立てた。
その時初めて、ジェニッタは男に腹を刺されたことに気がつく。
だが、今更それに気付いたところで、すでにジェニッタの命の灯火は消えようとしていた。
ジェニッタは、掠れていく視界の中、ぼんやりと考えていた。
あの日。
旦那様から北の採石場行きを宣言されて、猿轡と縄で縛られたままここへ連れて来られた。
それもこれも、あのルーナが私のことを「許す」と言わなかったから。
私の娘であるアネッタを虐めたと言うから、頬を叩いただけなのに。
旦那様は、私のことを愛してくれていたはずなのに。
きっと、あのルーナが旦那様に嘘を吹きこんだんだわ。
ルーナの嘘に気付いた旦那様が、きっとすぐに「ルーナの嘘に騙されていた。アイツを家から追い出したよ。許しておくれ、愛しい人」と言って私を迎えに来てくれる。
そう思っていたのに。
採石場に連れてこられた初日。
石を運ばなかったからと食事を抜かれた私に、パンとスープをやるからと私を建物の奥の部屋に呼んだ男がいた。
与えたのがバレると困るからと、こっそり来てくれと言って。
ああ。
私の美貌に目が眩んだのね?
アネッタを産んだけれど、私は若い頃と体型も変わっていない。
私の愛は旦那様だけのものだけど、ダリルのように貢ぎたいというなら許可してあげてもいいわ。
ジェニッタは驕り高ぶり、自分の都合のいいように記憶を塗り替えていた。
ダリルは決して貢いでいたわけではない。
王族の毒牙にかかり、妊娠した途端に捨てられ、両親からも捨てられたジェニッタを、単にかわいそうだからと助けたに過ぎない。
ダリルは単にお人好しなだけであり、自分の稼ぎで助けられる範囲で、ジェニッタとアネッタを助けていただけだった。
そして自分の命が短いことを知り、彼女たちが生きていくのを見守ることを兄に願った。
とりあえずの生活費は自分の絵の代金で、あとは公爵家が後見となればどこか下位貴族の侍女として働けるだろう。
そう願ってのことだった。
それを、ダグラスに一目惚れしたジェニッタは大きな勘違いをした。
だから、男の誘いも自分が魅力的なためだと勘違いをしたのだ。
「な・・・にを・・・」
石造りの、冷たい部屋に入ったジェニッタは、文句を言おうと男に振り返り・・・
腹に激しい熱を感じた。
触れるとぬるりと手が滑り、足がふらついて冷たい石床にへたり込んだ。
見上げると男が、ジェニッタを憎々しげに睨んでいた。
「お前のせいで・・・」
ジェニッタは、何故見知らぬ男にそんな憎々しげに睨まれるのかが理解らない。
「死んで詫びろ!」
そう怒鳴った男が、ジェニッタに馬乗りになり胸にナイフを突き立てた。
その時初めて、ジェニッタは男に腹を刺されたことに気がつく。
だが、今更それに気付いたところで、すでにジェニッタの命の灯火は消えようとしていた。
211
お気に入りに追加
4,365
あなたにおすすめの小説
【完結】私から全てを奪った妹は、地獄を見るようです。
凛 伊緒
恋愛
「サリーエ。すまないが、君との婚約を破棄させてもらう!」
リデイトリア公爵家が開催した、パーティー。
その最中、私の婚約者ガイディアス・リデイトリア様が他の貴族の方々の前でそう宣言した。
当然、注目は私達に向く。
ガイディアス様の隣には、私の実の妹がいた--
「私はシファナと共にありたい。」
「分かりました……どうぞお幸せに。私は先に帰らせていただきますわ。…失礼致します。」
(私からどれだけ奪えば、気が済むのだろう……。)
妹に宝石類を、服を、婚約者を……全てを奪われたサリーエ。
しかし彼女は、妹を最後まで責めなかった。
そんな地獄のような日々を送ってきたサリーエは、とある人との出会いにより、運命が大きく変わっていく。
それとは逆に、妹は--
※全11話構成です。
※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、ネタバレの嫌な方はコメント欄を見ないようにしていただければと思います……。
信頼はお金では買えません。ご存じありませんか? それはご愁傷様です
ノ木瀬 優
恋愛
突然婚約者から婚約破棄を突き付けられたミナ。頑張って立ち上げた商会も半分持っていかれてしまった。そんなミナを執事のロロが優しくサポートする。一方その頃、婚約破棄したカールは……。
アルファポリス初投稿です!
(主になろうをメインで活動していました。)
よくある婚約破棄物、全7話で2万字ちょっとの短い作品です。
本日中に完結します。軽い気持ちで読んで頂けたらと思います。R15は保険です。
【完結】これからはあなたに何も望みません
春風由実
恋愛
理由も分からず母親から厭われてきたリーチェ。
でももうそれはリーチェにとって過去のことだった。
結婚して三年が過ぎ。
このまま母親のことを忘れ生きていくのだと思っていた矢先に、生家から手紙が届く。
リーチェは過去と向き合い、お別れをすることにした。
※完結まで作成済み。11/22完結。
※完結後におまけが数話あります。
※沢山のご感想ありがとうございます。完結しましたのでゆっくりですがお返事しますね。
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
【完結】身代わり令嬢の華麗なる復讐
仲村 嘉高
恋愛
「お前を愛する事は無い」
婚約者としての初顔合わせで、フェデリーカ・ティツィアーノは開口一番にそう告げられた。
相手は侯爵家令息であり、フェデリーカは伯爵家令嬢である。
この場で異を唱える事など出来ようか。
無言のフェデリーカを見て了承と受け取ったのか、婚約者のスティーグ・ベッラノーヴァは満足気に笑い、立ち去った。
「一応政略結婚だけど、断れない程じゃないのよね」
フェデリーカが首を傾げ、愚かな婚約者を眺める。
「せっかくなので、慰謝料たんまり貰いましょうか」
とてもとても美しい笑みを浮かべた。
【完結】妹が欲しがるならなんでもあげて令嬢生活を満喫します。それが婚約者の王子でもいいですよ。だって…
西東友一
恋愛
私の妹は昔から私の物をなんでも欲しがった。
最初は私もムカつきました。
でも、この頃私は、なんでもあげるんです。
だって・・・ね
【完結】婚約者は自称サバサバ系の幼馴染に随分とご執心らしい
冬月光輝
恋愛
「ジーナとはそんな関係じゃないから、昔から男友達と同じ感覚で付き合ってるんだ」
婚約者で侯爵家の嫡男であるニッグには幼馴染のジーナがいる。
ジーナとニッグは私の前でも仲睦まじく、肩を組んだり、お互いにボディタッチをしたり、していたので私はそれに苦言を呈していた。
しかし、ニッグは彼女とは仲は良いがあくまでも友人で同性の友人と同じ感覚だと譲らない。
「あはは、私とニッグ? ないない、それはないわよ。私もこんな性格だから女として見られてなくて」
ジーナもジーナでニッグとの関係を否定しており、全ては私の邪推だと笑われてしまった。
しかし、ある日のこと見てしまう。
二人がキスをしているところを。
そのとき、私の中で何かが壊れた……。
【短編】婚約者に虐げられ続けた完璧令嬢は自身で白薔薇を赤く染めた
砂礫レキ
恋愛
オーレリア・ベルジュ公爵令嬢。
彼女は生まれた頃から王妃となることを決められていた。
その為血の滲むような努力をして完璧な淑女として振舞っている。
けれど婚約者であるアラン王子はそれを上辺だけの見せかけだと否定し続けた。
つまらない女、笑っていればいいと思っている。俺には全部分かっている。
会う度そんなことを言われ、何を言っても不機嫌になる王子にオーレリアの心は次第に不安定になっていく。
そんなある日、突然城の庭に呼びつけられたオーレリア。
戸惑う彼女に婚約者はいつもの台詞を言う。
「そうやって笑ってればいいと思って、俺は全部分かっているんだからな」
理不尽な言葉に傷つくオーレリアの目に咲き誇る白薔薇が飛び込んでくる。
今日がその日なのかもしれない。
そう庭に置かれたテーブルの上にあるものを発見して公爵令嬢は思う。
それは閃きに近いものだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる