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愚か者たちのその後①
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「うゔっ」
歩く足は重くて、痛くて仕方ない。
石を持つ手も、血が固まっては新たに裂けて血が滲む。
だが足を止めたら、もう歩くことが出来ない。
それに石を運ばなければ、一日二食の食事が抜かれるのだ。
最初は、柔らかな足の裏や手のひらが裂けて痛くて、石を運ぶことを拒否した。
石を運ばなくても、誰もダミアンを責めたり鞭で打ったりしなかった。
ただ食事を与えてもらえないだけだ。
王族だったダミアンからすれば、豪華とは言えない食事。
それでも三日、水だけしか口に出来なかったダミアンは、四日目の朝子供の頭くらいの石を手に取った。
採石場の管理人は、ダミアンたち労働者に暴力はふるわない。
ダミアンたちが暴力を振るわなければ。
ダミアンたちの後に入って来た荒くれ者が管理人に刃向かったのを、ダミアンはたまたま目にした。
採石場から逃げようとしたのだ。
管理人は表情ひとつ変えずに、荒くれ者の片目を剣で突いた。
淡々とした声で、次にやれば耳、その次は・・・と切り刻む場所を告げられ、荒くれ者は大人しくなった。
ダミアンとて一応は元王族である。
その管理人の腕前が、初めて剣を持った人間のそれでないことくらい理解った。
噂に聞いたところによると、この採石場のある北の領地を治める伯爵家の騎士の一人、らしい。
王太子だった頃に聞いたことがある。
北を治める伯爵は、屈強な武人だと。
それを目撃してからは、ダミアンは黙って石を運んだ。
採石場では、持てないような石を運べとは言われない。
ここは男も女も関係なく、石を運ばされる。
だから、自分の持てる重さの石を運べば良い。
軽く小さな石ばかりで楽をしようとしても、それを責められることはない。
ただ管理人はそれをよく見ていて、食事の量が減らされるだけだ。
食事にありつきたければ、自分の身に合った仕事をするしかない。
最初の頃は抵抗していたダミアンも、空腹には勝てなかった。
どれだけ自分が王族だと、不敬だと叫んでも、誰も聞こうとしてくれない。
もしも、あの時ルーナに婚約破棄なんか言わなければ。
いや、アネッタなどと婚約するなどと口にしなければ。
ダミアンは、ジェニッタやアネッタのように、罪を犯したわけではないと本人は思っている。
確かに、婚約のいる者が他の女性と懇意にしたことは不貞となるのだが、それだけでは採石場に送られるほどではない。
だが、公衆の面前で公爵令嬢に冤罪をかけたのがまずかった。
他の貴族たちの前で、不貞を知らしめ冤罪をかけた王族。
その責任は重い。
そして今更それに気付いたところで、ここから出ることは叶わない。
歩く足は重くて、痛くて仕方ない。
石を持つ手も、血が固まっては新たに裂けて血が滲む。
だが足を止めたら、もう歩くことが出来ない。
それに石を運ばなければ、一日二食の食事が抜かれるのだ。
最初は、柔らかな足の裏や手のひらが裂けて痛くて、石を運ぶことを拒否した。
石を運ばなくても、誰もダミアンを責めたり鞭で打ったりしなかった。
ただ食事を与えてもらえないだけだ。
王族だったダミアンからすれば、豪華とは言えない食事。
それでも三日、水だけしか口に出来なかったダミアンは、四日目の朝子供の頭くらいの石を手に取った。
採石場の管理人は、ダミアンたち労働者に暴力はふるわない。
ダミアンたちが暴力を振るわなければ。
ダミアンたちの後に入って来た荒くれ者が管理人に刃向かったのを、ダミアンはたまたま目にした。
採石場から逃げようとしたのだ。
管理人は表情ひとつ変えずに、荒くれ者の片目を剣で突いた。
淡々とした声で、次にやれば耳、その次は・・・と切り刻む場所を告げられ、荒くれ者は大人しくなった。
ダミアンとて一応は元王族である。
その管理人の腕前が、初めて剣を持った人間のそれでないことくらい理解った。
噂に聞いたところによると、この採石場のある北の領地を治める伯爵家の騎士の一人、らしい。
王太子だった頃に聞いたことがある。
北を治める伯爵は、屈強な武人だと。
それを目撃してからは、ダミアンは黙って石を運んだ。
採石場では、持てないような石を運べとは言われない。
ここは男も女も関係なく、石を運ばされる。
だから、自分の持てる重さの石を運べば良い。
軽く小さな石ばかりで楽をしようとしても、それを責められることはない。
ただ管理人はそれをよく見ていて、食事の量が減らされるだけだ。
食事にありつきたければ、自分の身に合った仕事をするしかない。
最初の頃は抵抗していたダミアンも、空腹には勝てなかった。
どれだけ自分が王族だと、不敬だと叫んでも、誰も聞こうとしてくれない。
もしも、あの時ルーナに婚約破棄なんか言わなければ。
いや、アネッタなどと婚約するなどと口にしなければ。
ダミアンは、ジェニッタやアネッタのように、罪を犯したわけではないと本人は思っている。
確かに、婚約のいる者が他の女性と懇意にしたことは不貞となるのだが、それだけでは採石場に送られるほどではない。
だが、公衆の面前で公爵令嬢に冤罪をかけたのがまずかった。
他の貴族たちの前で、不貞を知らしめ冤罪をかけた王族。
その責任は重い。
そして今更それに気付いたところで、ここから出ることは叶わない。
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