え?後悔している?それで?

みおな

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娘みたいなご令嬢に敵わない件

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「ヴァレリア嬢・・・」

 ラインハルトの掠れた声に、ルーナはその剣だこのある大きな手に、自分のそれを重ねた。

「ルーナとお呼びくださいませ、閣下」

 婚約は、王命と言っても過言ではない。

 そしてラインハルトの様子から、初恋の人が自分の手に落ちて来たことに気付いたルーナは、うっとりとした様子でラインハルトを追い込む。

 その様子を見ていたルーナの侍女であるセレナは、普段は変わらない表情に僅かに笑みを浮かべた。

 ルーナがずっと、初恋の相手であるラインハルトを慕っていたことをセレナたち使用人は知っている。

 だがルーナは公爵令嬢として、政略結婚を受け入れた。

 だからダミアンとの婚約を了承し、婚約者として努力していた。

 それなのにあの蛙を投げつけたクソガキは、何を拗らせたのかルーナを傷つけるような言動ばかりし、挙げ句に婚約破棄を宣言したのだ。

 しかしそのことは、ルーナはもちろん使用人たちも大歓迎のことだったので、問題はない。

 あとはルーナの望み通りに、初恋の君が王太子になり、ルーナが王太子妃になるのを見守るだけである。

「ルーナ嬢・・・わた、いや俺のことはラインハルトと」

「嬉しい。ずっとそうお呼びしたかった。ラインハルト様」

 儚げな容姿で、そのアイスブルーの瞳を潤ませ、上目遣いにラインハルトを見つめるルーナ。

 ドグドグと心臓が妙な音を立て、息が苦しくなる。

 目の前の彼女を抱きしめたい。

 そんな衝動にかられる。

 だがラインハルトは、その自分の欲に必死で抗った。

 正式に婚約者となっていない。
 なることはほぼ確定だが、まだ婚約者でないのだ。

 理性を総動員させる。

 重ねられていない方の手をラインハルトが膝の上で握りしめる様子に、ルーナは自分の手をそっと離した。

 離れていく柔らかな温もりに、ラインハルトの眉が辛そうにしかめられるのを見て、ルーナは嬉しくて胸が高鳴る。

「ルーナ嬢、本当に俺で良いのか?」

「ええ。ラインハルト様良いのです」

 嬉しそうな笑みに、ラインハルトも心を決めた。

 こんなに愛らしく、しかも王太子妃として完璧なご令嬢に求めて貰えたのだ。

 彼女を大切にしよう。誰よりも幸せにしよう。

「ありがとう。苦労はかけるかもしれないが、必ず幸せにする。次は婚約の手続きを終えて、公爵夫妻にご挨拶に伺わせていただく」

 決心さえすれば、ラインハルトも若く辺境伯としてやって来た男だ。

 立ち上がりルーナの元へ歩み寄ると、その前に跪いた。

 ルーナの手を取り、そっと唇を寄せる。

 五日後、正式な婚約の書類を持ってラインハルトがヴァレリア公爵邸を訪れ、ルーナとラインハルトは正式に婚約者となった。
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