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静かに王妃様が怒っているのを気付かない件

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「母上がお呼びと聞いた」

 すでに呼んでから三時間以上経っているが、そんなことは気にもせずにダミアンは母親がいる王妃の執務室を訪れた。

 後ろに、ジェニッタアネッタ親娘を引き連れて。

 この時点で、王妃キャスリーンの護衛騎士は判断に迷った。

 呼ばれてから三時間以上も経っているのに、平然と訪れた王太子殿下も問題といえば問題だが、とりあえず息子だと聞いているから、ギリギリヨシとしよう。

 だが、後ろの二人を王妃殿下の執務室に入れていいのか?

 王妃殿下の許可があれば別だが、が王宮に足を踏み入れている時点で問題である。

「殿下、お待ちください。王妃殿下の許可を取らずにその方々を執務室にお入れするわけにはいきません」

「はぁ?ヴァレリア公爵夫人と令嬢だぞ!しかも僕の婚約者になると聞いた」

 実際には公爵夫人でも令嬢でもないことを、すでに護衛騎士は知っている。

 すれ違った侍女たちもおかしいと思いながらも、王太子が連れているために何も言えなかったのだろう。

 だが、護衛騎士が侍女と同じ対応をするわけにはいかない。

「たとえ誰であろうと、ここは王妃殿下の執務室です。殿下の許可がなければ、殿でも勝手に入室はできません」

「チッ!なら、さっさと許可を取れ!」

「私の護衛騎士になんて口の聞き方をしているの?ダミアン」

 内側から扉が開き、冷たい瞳をダミアンに向ける王妃キャスリーンの姿があった。

「母上。しかし、コイツが・・・」

「それに私が貴方を呼んだのは、三時間も前のはずだけど?確か、私は貴方に自室での謹慎を言い渡したと思ったのだけど、間違いかしら?」

 母親の冷たい言葉に、そういえば謹慎を言い渡されていたのだと思い出す。

 そういえば、婚約破棄宣言のことで謹慎を言い渡されて・・・このまま部屋にいたら母親がやって来て叱責されると思って逃げ出したのだった。

 ダミアンの背中に冷や汗が流れる。

 王妃キャスリーンは、母親である以前に王妃としてダミアンと接していた。

 王族として、王太子として、どうあるべきか厳しく指導されたし、一人息子だからといって甘やかしてくれるどころか、逆に厳しかった。

 だからダミアンは何かお願いがあると、国王である父親に頼むようにしていた。

 父親も何でもかんでもは許してくれなかったが、可能な限りダミアンの気持ちを汲んでくれたし、母親に話を通してくれた。

 だから、後悔していた。
先に国王のところへ行って、一緒に来るべきだったと。

 そんなダミアンの考えなど、キャスリーンにはお見通しで・・・

 王妃キャスリーンはため息を吐いた。

「後ろの二人を連れて、謁見の間に行きなさい。私も陛下と共にすぐに行きます」

 馬鹿息子でも、ルーナが手綱を握ってくれていたらどうにかなると思ったが、これは結婚前に分かって良かったのかもしれない。
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