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愚者の訪れ《クリスティアン王子視点》

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「殿下。予定通り、あの者たちはジョージアナ伯爵邸で好き勝手しております」

 僕の側近であるハイラルの言葉に、思わず笑みが浮かんだ。

「殿下・・・お顔を引き締めて下さい。他の方に見せられないお顔になっておりますよ」

「お前は、相変わらず失礼なヤツだね。だって、面白いじゃないか。あの愚者どもは上手く手のひらの上で踊ってくれる」

 うちの可愛い妹であるマリンティアの大切な友人であるジョージアナ伯爵令嬢。
 そのご令嬢を、不貞をした挙句に婚約解消した馬鹿を、何とか罰してやりたいと思っていた。

 だが、不貞はともかく婚約解消は罪ではない。

 大人しく慰謝料を払ったなら、それで縁は切れるわけだし、もっとまともな子息を紹介しよう、そう思っていた。

 だが、スペンサー侯爵もゾナトフ男爵もマトモだというのに、当事者二人が慰謝料の支払いを渋っているだと?

 なら、愚者は愚者らしく落ちるところまで落としてやろうじゃないか。

 そう思って、ジョージアナ伯爵に相談したところ、まぁ渋々だけど伯爵家を提供してくれることとなった。

 侯爵への陞爵は渋られてるけど。
でも、影の報告だと、ご令嬢であるアリス嬢は訪れたサザンスィート王国で、精霊王と呼ばれる方のご寵愛を受けているのだとか。

 ケルヴィンがジュリアンと友人だということもあって、精霊王の伝承については僕も聞いていた。

 国に豊穣を与えてくれる存在。
サザンスィート王国が、自然豊かで穏やかな気候なのは、精霊がいるからだと言われている。

 そんな存在を統べる王の寵愛を受けているんだから、侯爵でも足りないくらいだろう?

 ご令嬢の目に触れないうちに処分しておこう。
そう思っていたのだが・・・

「まさか、新しい屋敷に向かうご令嬢を見つけるとはね」

 新しくジョージアナ侯爵家になる屋敷は、新婚となる二人の好きな内装にしてもらおうと、ケルヴィンに案内させていた。

 まさかそれを、あの愚者共に見られていたとは。

「しかし、これで一気に片付けられますよ。あの馬鹿は自分が婚約者に戻ることをご令嬢がと思い込んでいますからね。すでに、精霊王様との婚約は成立しています。国の宝となり得る精霊王様に危害を加えようとでもしたなら、処刑決定でしょう」

「不法侵入や伯爵邸の物を勝手に売った罪だけなら、犯罪奴隷程度だったが、愚者というものは素晴らしいね。自分から落ちるだけ落ちてくれる」

 笑いが止まらない。
まともなスペンサー侯爵やゾナトフ男爵には悪いが、あんな者たちを我が国に置いてはおきたくない。

「じゃあ、出ようか」

 愚者の処分のために、ジョージアナ侯爵家に向かうことにした。



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