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このままでは《サイード視点》
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ナターシャと会えずに侯爵家に戻ると、父上が玄関で立ち塞がっていた。
「ちち、上?」
「どこへ行っていた」
「・・・」
「まあいい。お前の真実の愛の相手は、バイト先で金を盗んで姿をくらませたぞ?」
父上の言ったことが理解できずに、首を傾げた。
「は?」
「ナターシャ・ゾナトフだったか?もっとも、ゾナトフ男爵家からは勘当され、もう貴族ではないがな。ゾナトフ男爵家にはあの娘しか子がいないそうだが、王家に爵位をお返しするそうだ。今頃、領地で領民たちに詫びているだろう。やれやれ。あのように清廉な両親から、何故あのような屑が生まれたのか」
「く、屑?父上!お言葉が過ぎます!」
ナターシャは屑などでは・・・
いや。今、父上は何を言った?ナターシャが貴族でなくなった?
唖然として、言葉が続かない。
バイト先で金を盗んだ?姿をくらませた?
そして、男爵位を王家に返したから、貴族でなくなった?
何もかもが寝耳に水で、だがその内容と、ナターシャの家が留守だったことと、強面の男たちがナターシャを探していたことが一致する。
混乱している僕に、父上は呆れたように言葉を続けた。
「何を思って、あの女に近付いたのかは知らんが、平民だろうと犯罪者だろうと、真実の愛の相手なのだろう?なら、関係ないな?だが、あのような者と関係のある人間に、スペンサー侯爵家と関わりを持ってもらっては困るのでな。お前をスペンサー侯爵家から廃籍する。金がないだろうから、慰謝料は侯爵家で負担してやる。だから、今日中に荷物をまとめて出て行け」
「え、あ、ち、父上!何を・・・」
「二度と父などと呼ばないでもらおうか。これは私だけの意見ではない。スペンサー侯爵家全員の総意だ。二度とスペンサーの名を名乗ることは許さない」
父上はそれだけ言うと、さっさと背中を向けて屋敷の中に消えて行った。
父上に言われたことが、消化しきれない。
何故だ?
愛するナターシャが、男爵家から勘当され、しかも犯罪者になったという。
そのナターシャと交際しているから、僕を侯爵家から捨てるというのか?
いや。
きっと父上がああ言ってるだけだ。
母上は僕のことを可愛がってくれていたから・・・
「あ、母上っ!」
屋敷に入り廊下を歩いていると、見慣れた背中が見えた。
僕のかけた声に、その背中はピクリと一瞬震え、そして振り返りも立ち止まりもせずにそのまま廊下を進んで行く。
母上?どうして・・・
いや!母上はきっと聞こえなかったんだ。
母上が僕を無視するわけがない。
そう思いながら廊下を進むと、僕の部屋の前に、兄上が立っていた。
「ちち、上?」
「どこへ行っていた」
「・・・」
「まあいい。お前の真実の愛の相手は、バイト先で金を盗んで姿をくらませたぞ?」
父上の言ったことが理解できずに、首を傾げた。
「は?」
「ナターシャ・ゾナトフだったか?もっとも、ゾナトフ男爵家からは勘当され、もう貴族ではないがな。ゾナトフ男爵家にはあの娘しか子がいないそうだが、王家に爵位をお返しするそうだ。今頃、領地で領民たちに詫びているだろう。やれやれ。あのように清廉な両親から、何故あのような屑が生まれたのか」
「く、屑?父上!お言葉が過ぎます!」
ナターシャは屑などでは・・・
いや。今、父上は何を言った?ナターシャが貴族でなくなった?
唖然として、言葉が続かない。
バイト先で金を盗んだ?姿をくらませた?
そして、男爵位を王家に返したから、貴族でなくなった?
何もかもが寝耳に水で、だがその内容と、ナターシャの家が留守だったことと、強面の男たちがナターシャを探していたことが一致する。
混乱している僕に、父上は呆れたように言葉を続けた。
「何を思って、あの女に近付いたのかは知らんが、平民だろうと犯罪者だろうと、真実の愛の相手なのだろう?なら、関係ないな?だが、あのような者と関係のある人間に、スペンサー侯爵家と関わりを持ってもらっては困るのでな。お前をスペンサー侯爵家から廃籍する。金がないだろうから、慰謝料は侯爵家で負担してやる。だから、今日中に荷物をまとめて出て行け」
「え、あ、ち、父上!何を・・・」
「二度と父などと呼ばないでもらおうか。これは私だけの意見ではない。スペンサー侯爵家全員の総意だ。二度とスペンサーの名を名乗ることは許さない」
父上はそれだけ言うと、さっさと背中を向けて屋敷の中に消えて行った。
父上に言われたことが、消化しきれない。
何故だ?
愛するナターシャが、男爵家から勘当され、しかも犯罪者になったという。
そのナターシャと交際しているから、僕を侯爵家から捨てるというのか?
いや。
きっと父上がああ言ってるだけだ。
母上は僕のことを可愛がってくれていたから・・・
「あ、母上っ!」
屋敷に入り廊下を歩いていると、見慣れた背中が見えた。
僕のかけた声に、その背中はピクリと一瞬震え、そして振り返りも立ち止まりもせずにそのまま廊下を進んで行く。
母上?どうして・・・
いや!母上はきっと聞こえなかったんだ。
母上が僕を無視するわけがない。
そう思いながら廊下を進むと、僕の部屋の前に、兄上が立っていた。
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