決めたのはあなたでしょう?

みおな

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お父様は私に激甘だから

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「それで、どうした?何か欲しい物でも出来たのか?」

 お父様の執務室にあるソファーに向かい合って座ると、侍女が紅茶を淹れてくれます。

 彼女が部屋の外へ下がったのを確認してから、私は口を開きました。

「お父様、申し訳ございません」

「何を謝っている?」

「サイード様・・・スペンサー侯爵令息様との婚約を解消して下さいませ」

 サイード様にも侯爵様にお話して下さるようにお願いしてありますが、侯爵領地のことを考えれば、頷かれないかもしれません。

 爵位は下とはいえ、サイード様の有責ですから、こちらから解消を願うことは可能なはずです。

「アリス」

「不甲斐ない娘で申し訳ございません。ですが、どうかお願いします」

 頭を下げてお父様にお願いします。

 サイード様が学園内だけの関係だと割り切っているのなら。
 いえ。伯爵家の後継ができるまでと、我慢して下さるなら。

 婚約を解消するつもりはありませんでした。
 貴族に生まれたのです。政略結婚することは、宿命だと思っています。

 たとえ愛がなくても、お互いを尊重し、支え合えるなら、それで良いと思っていましたのに。

 サイード様は、私が後継を授かるまでの五~六年を待つことは出来ないと判断されたのです。

 もしかしたら、愛するあの方以外を抱くことが出来ないのかもしれません。

 俯いたままの私の隣に、お父様が座って来られました。

 そして、そっと私の肩を抱き寄せて下さいます。

「お父様」

「アリスが謝ることなど、何もない。すまない。レジーナが生きていたなら、もっとお前の気持ちに寄り添ってやれただろうに。不甲斐ない父ですまない」

「そんな!お父様はいつもいつも、私のことを第一に考えて下さいました。お母様が幼い頃に儚くなられてから、寂しい思いをせずに済んだのは、ひとえにお父様がいてくださったおかげです。お父様は不甲斐なくなどありません!私は、私はお父様が大好きですわ」

 サイード様との婚約も、スペンサー侯爵家からの申込みとはいえ、私がサイード様を見て頬を染めていたのを見て、受けてくださったのですよね?

 確かにお母様が幼い頃に亡くなられて、お父様もお忙しく、寂しい思いをしたことがないわけではありません。

 男性であるお父様に、打ち明けられない悩みもありました。

 ですが、伯爵家に仕える侍女たちは、姉のように叔母のように、私に寄り添おうとしてくれましたし、辛い思いをしたことなどありません。

「お父様。サイード様には愛する方がいらっしゃるのです。サイード様有責にはなりますが、それでも私に誠実に向き合って下さったサイード様のためにも解消でお願いします」
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