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諦めれば楽になれる

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 自室のベッドの枕に顔を埋めます。
淑女としてはしたないですが、制服を着替える余裕もありませんでした。

「ぅ・・・ぅぅっ・・・」

 枕で抑えきれない嗚咽がもれてしまいますが、扉も閉まっているので、廊下までは聞こえないでしょう。

 サイード様が・・・
他の方を愛している。

 それは、私の中で僅かにあった不安でした。

 婚約当初は日を置かず伯爵家を訪れて下さっていたサイード様が、学園に入学し一年ほどたつ頃から、その回数が減ってきました。

 それでも、お招きのお手紙を送れば、お返事は下さいましたし、誕生日などもお祝いの品を下さっていました。

 学園生活と、騎士としての鍛錬が忙しいのだと、自分に言い聞かせていたのです。

 お父様たちは、私が学園に入学してもお迎えに来てくださらないことに、何か言いたそうでしたが、私たちは政略的な婚約ですし、相手は侯爵家。

 私に言っても私が困るだけだと、何もおっしゃられませんでした。

 もしかしたら、サイード様に想う方がいることを、お父様たちはご存知だったのかもしれません。

 サイード様は、婚約者としての最低限の役割はしてくださっています。

 学園に通う時のエスコートは、必然ではありません。
 誕生日のお祝いも下さいますし、お手紙のお返事も下さいます。

 だから・・・

 サイード様に想う方がいるとしても、私にはそのことを責めることは出来ません。

 我が国は、一夫一妻制です。
そして家を継げるのは、性別問わず実子のみ。

 つまりは我がジョージアナ伯爵家を継げるのは私のみで、サイード様は伯爵となった私の伴侶という形になります。

 私に子ができなければ、ジョージアナ伯爵家は王家に返上することになるので、本来なら私に弟妹がいるべきなのですが、私が三歳のときにお母様が病気でお亡くなりになってしまい、お母様を愛していたお父様は、再婚を望まれませんでした。

 私に子が望めなければ、それで伯爵家がなくなっても構わないと、そうおっしゃって。

 サイード様があの方と結ばれるには、私と婚約を解消するしかありません。

 私との婚約は、スペンサー侯爵家の領地立て直し為のもの。

 次男でスペンサー侯爵家を継ぐことがないとはいえ、貴族の子息としてご自分の役割は理解されているはず。

 ならば、私は婚姻をするその日までは、サイード様が愛している方と過ごすことに目をつぶらなければなりません。

 大丈夫です。
この涙が乾いたら、私は貴族の令嬢として立つことが出来ます。

 諦めればいいのです。
愛されることを諦めれば、楽になるのですから。
 
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