決めたのはあなたでしょう?

みおな

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婚約者の裏切り

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 クラスメイトたちは、私がサイード様の婚約者であることを知りません。

 ですから、ただの噂話として、私に話して聞かせてくれたのです。

 どれだけその侯爵子息様と、ご令嬢が仲睦まじかったか。

 どれだけその二人がお似合いで、いつもそばにいるのか。

 私は自分が貴族令嬢であることを、この時ほどありがたいと思ったことはありません。

 淑女教育の賜物でしょう。
どれほど心が打ち砕かれても、辛く苦しくても、表面上は笑顔を浮かべたままで、彼女たちの話を聞くことが出来たのですから。

 そのご令嬢が、どこの誰なのかは分かりませんが、それでも私はまだ、サイード様のことを信じたいと思っていました。

 もしかしたら、従姉妹なのかもしれない。
 もしかしたら、お父上であるスペンサー侯爵様から頼まれたご友人なのかもしれない。

 そんな私の僅かな望みは、この噂を聞いて一週間後に粉々に砕かれることになりました。

 その日、クラスメイトとの昼食の約束に遅れそうだった私は、近道をするために中庭を横切ろうとしていました。

 貴族令嬢としてはしたなくない程度に早足で、中庭を抜けようとした時・・・

 女性の声で「サイード」と言っているのが聞こえたのです。

 思わず足を止めてしまった私は、木立の奥、人目を避けるように佇む男女の姿を見つけてしまいました。

 熱い抱擁を交わす男女。

 男性の方は、金色の短髪に、精悍な体つき。背中を向けているので見えませんが、きっとその瞳は夏の空のように澄んだ青色をしていると思います。

 女性は、男性の体で顔は見えませんが、緩やかに弧を描く蜂蜜色の髪を男性の手が優しく撫でているのが見えました。

「ナターシャ、愛している」

「嬉しい、サイード。私もあなたを愛しているわ」

 愛を囁きあい、抱きしめあった二人が口付けを交わしていました。

 私は、どうやってその場から立ち去ったのか、覚えていません。

 気が付いたら、伯爵家の自分の部屋でした。

 私は・・・

 サイード様を信じていました。
一年間、ジョージアナ伯爵家からは足が遠のいていたけれど、それでも婚約者として誠実でいてくださっていると、信じていました。

 私とサイード様の婚約は、政略的なものです。

 そこに恋愛感情がなくても、それを責めることはできません。

 それでも婚約を結んだ限りは、お互いに誠実であるべきです。

 サイード様に愛している方がいるとしても、政略結婚を選ぶなら、諦めなければならないのです。

 愛し合う恋人同士を引き裂く悪者。

 演劇でいうならば、私の立場はそんなところでしょうか。





 
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