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打ち砕かれた恋心

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 サイード様と、お互いを大切にしながら、穏やかな関係を築いていけるものだと思っていました。

 サイード様は、私に一目惚れをしたとおっしゃって下さいましたが、人前でも私への思いをあらわにする様な方ではありません。

 物語や演劇の様な、激しい想いをぶつけて来ることもない、いえ違いますね。
 今思えば、サイード様は私に一目惚れしたとはおっしゃいましたが、私を好きだとは一言もおっしゃっていません。

 そのことを責めるつもりはありません。
私とサイード様の婚約は、両家の当主が決めたもの。

 恋愛感情がなくても、仕方ありません。

 政略結婚だとしても、お互いを敬い、暮らしていけるなら、家族としての情を持ってくださるなら、それでいいと思っていました。

 サイード様が学園に通われ始め、我が家を訪れなくなった頃も寂しいと思いましたが、お忙しいのだと思っていたのです。

 それが私の、願望でしかなかったのだと知ったのは、学園に入学してからでした。

 学年の違うサイード様とは、学園内でほとんどお会いすることがありません。

 私たちが通う学園は、学年毎に建屋が設けられているので、お会いできるのは、共同の中庭や食堂などになります。

 登校を一緒の馬車でしたり、昼食を一緒に取ったりするのでしょう。

 婚約者のいる同級生には、そうされている方が多くいます。

 もちろん、まだ婚約者のいない方も、婚約者がいても友人との交流を重んじる方もいます。

 ですから、サイード様からのお誘いがなくても、私は肩身の狭い思いをせずに済んでいました。

 私が、サイード・スペンサー侯爵子息様の婚約者であると知らない方も多くいました。

 それは無理はありません。
私たちが社交界にデビューするのは18歳です。

 公爵家や侯爵家ならば、学園入学前にお茶会も開くこともあるかもしれませんが、我が家は開いたことがありませんでした。

 ですから、クラスメイトからその名前を聞いたときに、とても驚いたのです。

「スペンサー侯爵のご子息様・・・ですか?」

「ええ。私たちの2学年上の方ですわ。確か、スペンサー侯爵家の次男の方で、とても精悍なご容姿の方ですのよ」

 やっぱり、サイード様のことのようです。
 確かにサイード様は、とても凛々しい方で、ご令嬢方の噂にのぼってもおかしくない方なのですが・・・

「その方・・・が?」

「ご婚約者の方かしら?蜂蜜色の豊かな髪と、煌めくエメラルド色の瞳をされた、お美しいご令嬢ととても仲睦まじくされているのよ。美男美女とはあの方々のことを言うのねぇ」

 目の前が真っ暗になりました。

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