決めたのはあなたでしょう?

みおな

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婚約者の望むこと

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「アリス。話がある」

 何かを決意した表情で、話しかけて来たサイード様に、私は彼に気づかれないように小さく息を吐きました。

 こうなることはわかっていました。
サイード様が何を話そうとしているのか、私には想像がついていたのです。

 私の目の前に立つサイード・スペンサー様は、スペンサー侯爵家の次男です。

 金髪碧眼に、精悍な顔つき。
騎士団に籍を置き、毎日鍛錬されていることで、とても鍛えられたご容姿をされています。

 私は、読んでいた本を閉じると、ベンチから立ち上がりました。

「どうされたのですか?サイード様」

 疑問の形を取っていますが、私はサイード様が何を仰ろうとしているのか、予想はついていました。

 ついてはいましたが、そうでなければ良いと思っていたのです。

 サイード様は躊躇いをみせた後、意を決したようにわたしに向き合われました。

「アリス。君との婚約は解消させて欲しい。僕は、ナターシャを愛しているんだ」

「サイード様。私たちの婚約はスペンサー侯爵家からの申し入れとはいえ、政略的なものです。私たち個人が勝手に結んだり解消したりは出来ないことはご存知でしょう?」

 貴族の婚約婚姻は、家と家の『契約』を意味しています。

 私、アリス・ジョージアナとサイード・スペンサー様との婚約も、両家の当主が政略的なものとして結んだものです。

 それを当事者とはいえ、私たちが勝手に解消することなどできるわけがありません。

「だが・・・僕はナターシャを愛しているんだ」

「サイード様が、ナターシャ様をお好きなことは理解しましたわ。ですが、私にそれをおっしゃられても困ります。どうしても婚約を解消したいのなら、お父様であるスペンサー侯爵にお願いしてくださいませ」

 苦悶の表情で、何度もナターシャ様への愛を語られるサイード様に、私は仕方なく解決案をお伝えします。

 お父上であるスペンサー侯爵家の当主様に、婚約解消をお願いすれば良いのですわ。

 スペンサー侯爵家は、サイード様のお兄様がお継ぎになると決まっています。

 次男のサイード様には、婚姻後にジョージアナ伯爵家を継ぐ私の伴侶になってもらう予定でした。

 ですが、それほどまでにナターシャ様をお好きなのなら、私と添い遂げることは難しそうです。

 政略結婚が貴族の令嬢の義務とはいえ、私もお互い思い思われる関係を築きたいですもの。

 お父様にはお手を煩わせてしまいますが、新たな婚約者を探していただかなければなりませんね。


 








 
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