上 下
23 / 30

自重して欲しいとお願いされました

しおりを挟む
「ルディア、あまり無理はしないでくれ」

 ヴィンセント様の言葉に、私は首を傾げました。

 無理ってなんでしょうか。

 徹夜もしていませんし、ご飯も三食いただいていますし、なんならお茶もお菓子もいただいています。

 イブリンとアレッタ(さん付けはやめるように言われました。年上なので付けたかったのですが、使用人にさん付けするものではないと叱られてしまいました)が交代で見張り?をしているので、無理などできません。

「ずっと回復薬を作っているだろう?もう相当数できていると聞く。また必要になれば頼むかもしれないが、当分は大丈夫だ。だから、ルディアはルディアのしたいことをして過ごしてくれればいいんだ」

 したいこと、ですか?

 私はこの国でお世話になっているのですから、少しでもお役に立ちたいのです。

 聖女としての力が役に立つと分かったのですから、それに心血を注ぐのは当たり前なのではないでしょうか。

「ルディア。俺はルディアが聖女だから大切なんじゃない。ルディアがルディアだから、愛しいんだ」

「でも、私は何もできなくて・・・」

「俺を幸せにしてくれる」

「ヴィンセント様を幸せに?」

 そんなこと、ネモフィラ王国でいた頃は言われたことがありません。

 聖女として頑張っていても、生きていることすら無駄のように言われました。

 なのに、ヴィンセント様は私がただいるだけでいいとおっしゃるのですか。

 胸が痛いです。

 ヴィンセント様がその手を伸ばして、私の頬に触れました。

 そっと親指で頬を拭われます。

「悲しくなることを言ってしまったか?」

「いえっ・・・う、嬉し、くて・・・」

「そうか」

 あの頃、苦しくて悲しくて涙したこともありましたが、叱咤されるだけでした。

 それなのに、ヴィンセント様は泣きたいだけ泣けばいいとおっしゃってくださいます。

 アレッタが、蒸したタオルを持ってきてくれました。

 良かったです。
泣きすぎると酷い顔になってしまいますから。

「ルディアが、聖女として頑張ろうとしてくれているのは嬉しい。回復薬があれば、多くの民が助かるだろう。だが、それでルディアが倒れたりしたら俺もイブリンやアレッタも悲しい。だから、自分を大切にして欲しい」

「ネモフィラ王国にいた頃に比べたら、全然ゆっくりしているのですが、みんなに心配かけるのは嫌なので自重します」

「ああ。そうしてくれ」

 私が全然平気だと言うと、ヴィンセント様もアレッタもどうしてか微妙なお顔をされていましたが・・・

 私の気のせいですね。
これからは心配させないように、時間を決めて回復薬を作りましょう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。

藍生蕗
恋愛
 かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。  そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……  偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。 ※ 設定は甘めです ※ 他のサイトにも投稿しています

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

捨てられた私が聖女だったようですね 今さら婚約を申し込まれても、お断りです

木嶋隆太
恋愛
聖女の力を持つ人間は、その凄まじい魔法の力で国の繁栄の手助けを行う。その聖女には、聖女候補の中から一人だけが選ばれる。私もそんな聖女候補だったが、唯一のスラム出身だったため、婚約関係にあった王子にもたいそう嫌われていた。他の聖女候補にいじめられながらも、必死に生き抜いた。そして、聖女の儀式の日。王子がもっとも愛していた女、王子目線で最有力候補だったジャネットは聖女じゃなかった。そして、聖女になったのは私だった。聖女の力を手に入れた私はこれまでの聖女同様国のために……働くわけがないでしょう! 今さら、優しくしたって無駄。私はこの聖女の力で、自由に生きるんだから!

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

聖女のわたしを隣国に売っておいて、いまさら「母国が滅んでもよいのか」と言われましても。

ふまさ
恋愛
「──わかった、これまでのことは謝罪しよう。とりあえず、国に帰ってきてくれ。次の聖女は急ぎ見つけることを約束する。それまでは我慢してくれないか。でないと国が滅びる。お前もそれは嫌だろ?」  出来るだけ優しく、テンサンド王国の第一王子であるショーンがアーリンに語りかける。ひきつった笑みを浮かべながら。  だがアーリンは考える間もなく、 「──お断りします」  と、きっぱりと告げたのだった。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

婚約破棄の上に家を追放された直後に聖女としての力に目覚めました。

三葉 空
恋愛
 ユリナはバラノン伯爵家の長女であり、公爵子息のブリックス・オメルダと婚約していた。しかし、ブリックスは身勝手な理由で彼女に婚約破棄を言い渡す。さらに、元から妹ばかり可愛がっていた両親にも愛想を尽かされ、家から追放されてしまう。ユリナは全てを失いショックを受けるが、直後に聖女としての力に目覚める。そして、神殿の神職たちだけでなく、王家からも丁重に扱われる。さらに、お祈りをするだけでたんまりと給料をもらえるチート職業、それが聖女。さらに、イケメン王子のレオルドに見初められて求愛を受ける。どん底から一転、一気に幸せを掴み取った。その事実を知った元婚約者と元家族は……

処理中です...