18 / 30
私だけなのです
しおりを挟む
「というわけだ。飲ませる飲まさないは、親であるお前たちの判断に任せる。もしかしたら毒になり命を落としてしまうかもしれない。だが、もしそうなったとしても悪いのはそれを作るように頼んだ俺だ。恨むなら俺にして欲しい」
ヴィンセント様が、一組の夫妻の前でそうお話されています。
私はメルキオール王国に来るまで、ほとんど人と接することがなかったので、目の前の夫妻の方が裕福の方なのかもご年齢も分からないのですが、ものすごくやつれていらっしゃる気がします。
無理もありません。
大切なお子様が命の危険に晒されているのですから。
絶対に効くと言えたら良かったのに。
効かないのなら、私が聖女である意味がないです。
私は、私を幸せにしてくれるヴィンセント様が大切にしている、この国の人たちを守りたいのです。
「飲ませます!」
「効かないかもしれないし、それどころか毒になってしまうかもしれないぞ」
「もう・・・もう、娘は・・・同じ助からないなら、藁にだって縋りたいっ!」
「分かった。だが、約束してくれ。決してルディアを恨まないと。恨みは俺に向けると」
ヴィンセント様の言葉に、そんなのは嫌だと言いたいです。
私が作った回復薬なのですから、私が責められるべきだと。
でも口を挟まず、黙って付き人のふりをするという約束で連れて来てもらったのです。
でも。でも。
お子さんにもしものことがあったときは、私が回復薬を作った聖女だと、ご両親に告白しましょう。
ご両親に回復薬を渡し、一緒にお子様が眠っているというお部屋に同行します。
可愛らしいピンク色の壁紙やカーテンなどの子供部屋に、そのお嬢さんはいました。
包帯が巻かれた小さな手。
顔も頭から右目のあたりまで包帯が巻かれ、血が滲んでいます。
紫色に変色した皮膚。
浅い息。
閉じられたままの瞳。
ご両親が言うように、もうこの女の子には時間が残されていないようです。
「カナ、お薬だよ。飲めるかい?」
「・・・」
ご両親は、回復薬の入った瓶を女の子の口元に近付けますが、もう女の子には口を開ける力もないようです。
「あのっ!私が口に含んで飲ませます。やらせていただけませんかっ」
ごめんなさい、ヴィンセント様。
口を挟まないという約束を破ってしまって。
お叱りはあとでちゃんと受けます。
魔族の方には、薬になるか毒になるか分からないものです。
ですから、ご両親が口に含むわけにはいきません。
でも、聖女の私には私の作った薬は効きません。
今、この女の子に回復薬を飲ませることができるのは、私だけなのです。
ヴィンセント様が、一組の夫妻の前でそうお話されています。
私はメルキオール王国に来るまで、ほとんど人と接することがなかったので、目の前の夫妻の方が裕福の方なのかもご年齢も分からないのですが、ものすごくやつれていらっしゃる気がします。
無理もありません。
大切なお子様が命の危険に晒されているのですから。
絶対に効くと言えたら良かったのに。
効かないのなら、私が聖女である意味がないです。
私は、私を幸せにしてくれるヴィンセント様が大切にしている、この国の人たちを守りたいのです。
「飲ませます!」
「効かないかもしれないし、それどころか毒になってしまうかもしれないぞ」
「もう・・・もう、娘は・・・同じ助からないなら、藁にだって縋りたいっ!」
「分かった。だが、約束してくれ。決してルディアを恨まないと。恨みは俺に向けると」
ヴィンセント様の言葉に、そんなのは嫌だと言いたいです。
私が作った回復薬なのですから、私が責められるべきだと。
でも口を挟まず、黙って付き人のふりをするという約束で連れて来てもらったのです。
でも。でも。
お子さんにもしものことがあったときは、私が回復薬を作った聖女だと、ご両親に告白しましょう。
ご両親に回復薬を渡し、一緒にお子様が眠っているというお部屋に同行します。
可愛らしいピンク色の壁紙やカーテンなどの子供部屋に、そのお嬢さんはいました。
包帯が巻かれた小さな手。
顔も頭から右目のあたりまで包帯が巻かれ、血が滲んでいます。
紫色に変色した皮膚。
浅い息。
閉じられたままの瞳。
ご両親が言うように、もうこの女の子には時間が残されていないようです。
「カナ、お薬だよ。飲めるかい?」
「・・・」
ご両親は、回復薬の入った瓶を女の子の口元に近付けますが、もう女の子には口を開ける力もないようです。
「あのっ!私が口に含んで飲ませます。やらせていただけませんかっ」
ごめんなさい、ヴィンセント様。
口を挟まないという約束を破ってしまって。
お叱りはあとでちゃんと受けます。
魔族の方には、薬になるか毒になるか分からないものです。
ですから、ご両親が口に含むわけにはいきません。
でも、聖女の私には私の作った薬は効きません。
今、この女の子に回復薬を飲ませることができるのは、私だけなのです。
316
お気に入りに追加
623
あなたにおすすめの小説
誰にも信じてもらえなかった公爵令嬢は、もう誰も信じません。
salt
恋愛
王都で罪を犯した悪役令嬢との婚姻を結んだ、東の辺境伯地ディオグーン領を治める、フェイドリンド辺境伯子息、アルバスの懺悔と後悔の記録。
6000文字くらいで摂取するお手軽絶望バッドエンドです。
*なろう・pixivにも掲載しています。
【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。
藍生蕗
恋愛
かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。
そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……
偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。
※ 設定は甘めです
※ 他のサイトにも投稿しています
【完結】「神様、辞めました〜竜神の愛し子に冤罪を着せ投獄するような人間なんてもう知らない」
まほりろ
恋愛
王太子アビー・シュトースと聖女カーラ・ノルデン公爵令嬢の結婚式当日。二人が教会での誓いの儀式を終え、教会の扉を開け外に一歩踏み出したとき、国中の壁や窓に不吉な文字が浮かび上がった。
【本日付けで神を辞めることにした】
フラワーシャワーを巻き王太子と王太子妃の結婚を祝おうとしていた参列者は、突然現れた文字に驚きを隠せず固まっている。
国境に壁を築きモンスターの侵入を防ぎ、結界を張り国内にいるモンスターは弱体化させ、雨を降らせ大地を潤し、土地を豊かにし豊作をもたらし、人間の体を強化し、生活が便利になるように魔法の力を授けた、竜神ウィルペアトが消えた。
人々は三カ月前に冤罪を着せ、|罵詈雑言《ばりぞうごん》を浴びせ、石を投げつけ投獄した少女が、本物の【竜の愛し子】だと分かり|戦慄《せんりつ》した。
「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」
アルファポリスに先行投稿しています。
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
2021/12/13、HOTランキング3位、12/14総合ランキング4位、恋愛3位に入りました! ありがとうございます!
踏み台(王女)にも事情はある
mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。
聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。
王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。
聖女のわたしを隣国に売っておいて、いまさら「母国が滅んでもよいのか」と言われましても。
ふまさ
恋愛
「──わかった、これまでのことは謝罪しよう。とりあえず、国に帰ってきてくれ。次の聖女は急ぎ見つけることを約束する。それまでは我慢してくれないか。でないと国が滅びる。お前もそれは嫌だろ?」
出来るだけ優しく、テンサンド王国の第一王子であるショーンがアーリンに語りかける。ひきつった笑みを浮かべながら。
だがアーリンは考える間もなく、
「──お断りします」
と、きっぱりと告げたのだった。
契約破棄された聖女は帰りますけど
基本二度寝
恋愛
「聖女エルディーナ!あなたとの婚約を破棄する」
「…かしこまりました」
王太子から婚約破棄を宣言され、聖女は自身の従者と目を合わせ、頷く。
では、と身を翻す聖女を訝しげに王太子は見つめた。
「…何故理由を聞かない」
※短編(勢い)
その聖女、娼婦につき ~何もかもが遅すぎた~
ノ木瀬 優
恋愛
卒業パーティーにて、ライル王太子は、レイチェルに婚約破棄を突き付ける。それを受けたレイチェルは……。
「――あー、はい。もう、そういうのいいです。もうどうしようもないので」
あっけらかんとそう言い放った。実は、この国の聖女システムには、ある秘密が隠されていたのだ。
思い付きで書いてみました。全2話、本日中に完結予定です。
設定ガバガバなところもありますが、気楽に楽しんで頂けたら幸いです。
R15は保険ですので、安心してお楽しみ下さい。
舞台装置は壊れました。
ひづき
恋愛
公爵令嬢は予定通り婚約者から破棄を言い渡された。
婚約者の隣に平民上がりの聖女がいることも予定通り。
『お前は未来の国王と王妃を舞台に押し上げるための装置に過ぎん。それをゆめゆめ忘れるな』
全てはセイレーンの父と王妃の書いた台本の筋書き通り───
※一部過激な単語や設定があるため、R15(保険)とさせて頂きます
2020/10/30
お気に入り登録者数50超え、ありがとうございます(((o(*゚▽゚*)o)))
2020/11/08
舞台装置は壊れました。の続編に当たる『不確定要素は壊れました。』を公開したので、そちらも宜しくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる