上 下
16 / 30

居心地の良い場所

しおりを挟む
 私にとって、メルキオール王国は居心地の良い場所です。

 誰も、私が何も出来なくても責めたりしません。

 ヴィンセント様はもちろんですが、イブリンもアレッタさんもノワールさんも、みんな私に優しくしてくれます。

 だからみんなのために、何かしたいのです。

「ルディアは優しいな」

「いえ、違います。優しいのは、ヴィンセント様であり、ノワールさんであり、イブリンであり、アレッタさんです。それからお城の皆さんも」

 私が優しく見えるのならば、それは皆さんに優しくされたからです。

「私に何かできることはあるでしょうか?」

「そうだな・・・ルディアは聖女として結界の維持以外にどんなことをしていたんだ?」

「そうですね。基本は結界の維持でしたけど、毎日回復薬の生産もしていました」

 ネモフィラ王国は聖女の結界で魔物が侵入してくることはなかったですけど、他国に売るからと回復薬を作らされていました。

 聖女としての当然の役目だと言われて。

 あの頃はそれを疑問に思うこともなかったですが、今考えると『他国に売る物』を何故聖女が作らなければならないのでしょう。

 いえ。作るのが嫌だとかではなく、それに対する対価ももらえないのに、私は疑問にも思わず、動かぬ体を酷使して作っていました。

「その回復薬とは、どうやって作るんだ?」

「精製水に聖力を注ぐのです。注ぐ量により、効果が変わります」

「そうなのか。魔族にも効くのだろうか」

「わかりません。私が初めて会った魔族がヴィンセント様ですから」

 効くのならお役にたてるのですが、どうやって調べればいいのでしょうか。

 聖女の作った回復薬ですし、ヴィンセント様たち魔族の方にも効くのでしょうか?

 薬が毒になったりしないでしょうか。

「魔獣に襲われて、もう助かる見込みがない幼子がいる。親にも確認しなければならないが、わずかでも可能性があるなら試してみたい。作ってもらえないか」

「もちろんです。すぐに帰りましょう」

「良いのか?」

「街にはまた来れます。でも、回復薬は一分一秒でも早く作りたいです」

 人の命より重いものはありません。
かつて死んだ私が言うのだから間違いありません。

 幼い子供の、命の灯火が消えようとしているなんて。

 どれほどの傷かわかりませんが、痛いし苦しいでしょう。

 それに、そんな苦しんでいる子供を見ているご両親も辛いと思います。

 私の聖女としての力が役に立つなら、私はそのために生き返ったのだと思えます。

 優しいこの人たちに報いたい。

 心からそう思うのです。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

誰にも信じてもらえなかった公爵令嬢は、もう誰も信じません。

salt
恋愛
王都で罪を犯した悪役令嬢との婚姻を結んだ、東の辺境伯地ディオグーン領を治める、フェイドリンド辺境伯子息、アルバスの懺悔と後悔の記録。 6000文字くらいで摂取するお手軽絶望バッドエンドです。 *なろう・pixivにも掲載しています。

【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。

藍生蕗
恋愛
 かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。  そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……  偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。 ※ 設定は甘めです ※ 他のサイトにも投稿しています

【完結】「神様、辞めました〜竜神の愛し子に冤罪を着せ投獄するような人間なんてもう知らない」

まほりろ
恋愛
王太子アビー・シュトースと聖女カーラ・ノルデン公爵令嬢の結婚式当日。二人が教会での誓いの儀式を終え、教会の扉を開け外に一歩踏み出したとき、国中の壁や窓に不吉な文字が浮かび上がった。 【本日付けで神を辞めることにした】 フラワーシャワーを巻き王太子と王太子妃の結婚を祝おうとしていた参列者は、突然現れた文字に驚きを隠せず固まっている。 国境に壁を築きモンスターの侵入を防ぎ、結界を張り国内にいるモンスターは弱体化させ、雨を降らせ大地を潤し、土地を豊かにし豊作をもたらし、人間の体を強化し、生活が便利になるように魔法の力を授けた、竜神ウィルペアトが消えた。 人々は三カ月前に冤罪を着せ、|罵詈雑言《ばりぞうごん》を浴びせ、石を投げつけ投獄した少女が、本物の【竜の愛し子】だと分かり|戦慄《せんりつ》した。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」 アルファポリスに先行投稿しています。 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 2021/12/13、HOTランキング3位、12/14総合ランキング4位、恋愛3位に入りました! ありがとうございます!

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

その聖女、娼婦につき ~何もかもが遅すぎた~

ノ木瀬 優
恋愛
 卒業パーティーにて、ライル王太子は、レイチェルに婚約破棄を突き付ける。それを受けたレイチェルは……。 「――あー、はい。もう、そういうのいいです。もうどうしようもないので」  あっけらかんとそう言い放った。実は、この国の聖女システムには、ある秘密が隠されていたのだ。  思い付きで書いてみました。全2話、本日中に完結予定です。  設定ガバガバなところもありますが、気楽に楽しんで頂けたら幸いです。    R15は保険ですので、安心してお楽しみ下さい。

聖女のわたしを隣国に売っておいて、いまさら「母国が滅んでもよいのか」と言われましても。

ふまさ
恋愛
「──わかった、これまでのことは謝罪しよう。とりあえず、国に帰ってきてくれ。次の聖女は急ぎ見つけることを約束する。それまでは我慢してくれないか。でないと国が滅びる。お前もそれは嫌だろ?」  出来るだけ優しく、テンサンド王国の第一王子であるショーンがアーリンに語りかける。ひきつった笑みを浮かべながら。  だがアーリンは考える間もなく、 「──お断りします」  と、きっぱりと告げたのだった。

舞台装置は壊れました。

ひづき
恋愛
公爵令嬢は予定通り婚約者から破棄を言い渡された。 婚約者の隣に平民上がりの聖女がいることも予定通り。 『お前は未来の国王と王妃を舞台に押し上げるための装置に過ぎん。それをゆめゆめ忘れるな』 全てはセイレーンの父と王妃の書いた台本の筋書き通り─── ※一部過激な単語や設定があるため、R15(保険)とさせて頂きます 2020/10/30 お気に入り登録者数50超え、ありがとうございます(((o(*゚▽゚*)o))) 2020/11/08 舞台装置は壊れました。の続編に当たる『不確定要素は壊れました。』を公開したので、そちらも宜しくお願いします。

契約破棄された聖女は帰りますけど

基本二度寝
恋愛
「聖女エルディーナ!あなたとの婚約を破棄する」 「…かしこまりました」 王太子から婚約破棄を宣言され、聖女は自身の従者と目を合わせ、頷く。 では、と身を翻す聖女を訝しげに王太子は見つめた。 「…何故理由を聞かない」 ※短編(勢い)

処理中です...