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93.その頃の元婚約者たち〜マデリーン王国国王視点〜

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 フローレンス公爵家が亡命した。

 その事実に、椅子から立ち上がることが出来なかった。

 執務室に山積みになっていた書類。
その中に、公爵家の爵位返上を認めるものがあった。

 おそらく、じわじわと公務から手を引いて行きながらも、決済印のみ押せば良い書類の中に上手く紛れ込ませたのだろう。

 その書類も、最初は全て確認していた。

 優秀な政務官が『目を通して承認印を押す物』と『目を通して承認するか採決する物』に分けてくるようになった。

 一年ほど前からだ。

 だが、それらの書類が混ざることもなく、少しずつ少しずつ、目を通すことが減っていった。

 私の元へ回ってくる書類が増えたせいで、承認印を押すだけの方に目を通す時間を他に回すようになったのだ。

 だが、他人を責めることは出来ない。
私が悪いのだから。

 今思えば、あの政務官もフローレンス公爵家の息がかかった者なのだろう。

 領地の分配も、今回の婚約解消よりもずっと前から始めていたようだ。

 令嬢は一人娘だったから王太子の婚約者になった時点で、公爵位をいずれ返上するつもりだったのだろう。

 そのことにもっと早く気付いていれば、いやそもそもウィリアムが婚約解消などしなければ、こんなことにはならなかったのに。

「父上っ!」

「今更、何を喚いてもどうにもならん。あの公爵が決めたことなら、手抜かりもないだろう。お前には、どこか公爵家か侯爵家から婚約者を選ぶ。卒業までに王太子妃教育が終わりそうな者をだ」

「そんな・・・!アイシュはっ」

令嬢でない相手に王命など使えん。そもそもお前は別にフローレンス嬢に恋愛感情はないだろう?単にあの小娘に愛想が尽きただけで、面倒くさくなったんだろう?」

 フローレンス嬢側に、少しでも愛情が残っていればと再婚約に縋ったが、やはり無理があったな。

 どちらにしろ、彼女との婚約がなくなった時点で、フローレンス公爵家との縁は切れてしまったのだ。

 公爵を怒らせないために、素直に婚約解消を認めたが、一人息子だからと甘やかし過ぎたな。

 性格は真面目で穏やかで優しいが、悪く言えば優柔不断で思慮が浅い。

 未熟な息子を助長させた親の責任だろう。
しっかりと手綱を握ってくれるご令嬢がいれば良いが。

「あの男爵令嬢は、王宮メイドの任を解く。実家のレブン男爵家へ帰るように伝えろ。お前が恋に溺れてその気にさせたのだ。自分のしたことは自分で後始末をしろ。それが出来ないのなら、男爵家へ婿入りでも何でもするが良い。王太子はミリアにさせる」

「父上っ」

「それが嫌なら、キチンとやるんだな」

 ミリアには、というかシェリエメールの王子殿下にはそのつもりはないらしいがな。

 

 
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