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85.できる者できない者〜ウィリアム視点〜

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「は?フローレンス公爵が?」

 慌てた様子の父上から聞いたのは、フローレンス公爵家の全員が我がマデリーン王国を捨てて亡命したということだった。

 公爵として、常に王家を支えてくれていた一柱である公爵家の亡命。

 それはマデリーン王国にとって、大打撃だった。

 アイシュ・フローレンス公爵令嬢。
僕のかつての婚約者。

 銀髪に銀色の瞳をした彼女は、生まれた時から僕の婚約者だった。

 そしてそれを当たり前だと思っていた僕は、王宮メイドである男爵令嬢に恋をした。

 アイシュに不満を持ったことはない。
だけど彼女が僕に恋などしていなかったように、僕も彼女に恋をしていなかった。

 だから、ディアナにのめり込んだ。
明るく愛らしいディアナ。

 アイシュには悪いと思いながらも、ディアナへの気持ちは止められなかった。

 当然のことながら、僕の行動はアイシュだけでなく父上や母上の知ることとなった。

 そして、婚約解消。

 母上はアイシュでないと王太子妃は務まらないと反対していたが、父上が解消を押し進めた。

 解消後にアイシュはクライゼン王国に渡ったらしい。

 というのも、僕は王太子妃教育が思うように進まないディアナにずっと手を取られていたのだ。

 元々が下位の男爵令嬢というのもあるが、ディアナは最低限のマナーしか身についていなかった。

 一般メイドであることで気づくべきだったんだ。

 キチンとマナーを身につけたものは、王宮内でも侍女として務めている。

 下位のメイドでしかないディアナは、高位貴族と接することさえ許されない立場でしかないということだったのだ。

 そんな彼女が、王太子妃教育に耐えられるわけがなかった。

 淑女教育から始めなければならないのだから。

 だけど、、頑張ってくれると思っていたんだ。

 一方、アイシュはクライゼン王国の第二王子と婚約したと聞いた。

 アイシュとは、ずっと婚約者だったから、彼女が自分のそばからいなくなるということは、不思議な感じがした。

 それでも、彼女なら優秀な王子妃になると思ったし、幸せになって欲しいとも思った。

 母上はずっと、アイシュを正妃にディアナは愛妾にと言っていた。

 確かに王太子妃教育も終えているアイシュなら正妃として問題ないだろうけど、彼女は他の人間と婚約したのだし、僕はディアナを愛妾なんかにするつもりはない。

「ウィリアム様・・・先生方がアイシュ様ならこんなこと子供の頃に出来たとかおっしゃるんです。私、私・・・」

「ディアナ、大丈夫。時間がかかってもいいんだ。アイシュができたんだから、君にもできるよ」



 
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