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58.魅力的なお誘い〜リュカ視点〜

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「りゅ、リュカ、あのお店見てみたい」

 俺と手を繋いだまま、行列の先に視線を向けるアイシュお嬢様。

 その赤く染まった頰に、鼓動が早くなった。

 何だこれ。
こんな表情を見たことない。

 つられてコッチの顔も赤くなりそうで、慌てて行列の方に視線を向けた。

「随分待ちそうですけど、並ぶの平気ですか?」

「・・・うん、大丈夫」

 とりあえずお嬢様の手を引いて、行列の一番後ろに並ぶ。

 すぐに俺たちの後ろにも列が出来た。

 何の店だ?随分と人気のようだけど。

「あの・・・これ、何の店なんですか?」

 俺たちのすぐ後ろに並んだ、恋人らしき二人組に尋ねてみる。

 平民らしき二人組の、女性の方が目を丸くする。

「え?知らないで並んでたんですか?ここは、ドーナツ専門店なんですよ。こう、串の先にハート型とか星型とか可愛いドーナツが付いてるんです」

「ドーナツ・・・」

「もしかしてドーナツを知りません?小麦粉で作ったパンみたいなものを揚げた甘いお菓子です。甘いもの苦手でないのなら、オススメですよ」

 若い女性は、多分お嬢様が貴族だと気付いたのだろう。

 親切に教えてくれた。

「ありがとう。食べてみるわ」

 お嬢様が微笑んでお礼を言うと、二人組はニコニコと笑って手を振った。

「親切ね」

「ええ、本当に。美味しいみたいですし、楽しみですね」

「ええ、楽しみだわ」

 嬉しそうなお嬢様に、俺も嬉しくなる。

 思ってたより行列は早く進み、俺たちの番がやって来た。

 金貨より一回り大きい程度の星型やハート型のドーナツとやらは、白や茶色、ピンクやオレンジなど、カラフルな色をしていた。

「まぁ!可愛い!どうしましょう、リュカ。選べないわ」

「あの、すみません、オススメを四つ下さい」

 後ろが随分と並んでいるし、俺にもどれがいいのか分からない。

 店員におすすめを頼むと、思っていたよりも安値だった。

 これは行列ができるわけだ。

 貴族がよく買うケーキ店の半額以下だ。

 代金を少し多めに出して、店員に後ろの二人組の代金の足しにして欲しいと頼む。

 親切にされたことで、お嬢様はとても嬉しそうだった。

 お礼をするのは当然だ。

 お嬢様の手を引いて、噴水の前のベンチまで進む。

 ポケットから出したハンカチを敷き、お嬢様に座ってもらう。

「見て、リュカ。本当に可愛いわ。何味なのかしら?」

 白の星型に、ピンクと白の縞模様のハート型、白地に耳がついていて目と鼻を描いた猫らしき顔、茶色地に目鼻の付いたクマらしき顔。

 顔型をかじるのか?
可愛いと言いながら顔を?

「お嬢が好きなのを食べてください。全部食べても良いですよ」

「せっかくだもの、半分こしましょう?」

「いや、俺は甘いものは・・・いやいただきます」

 半分こは魅力的だ。

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