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53.ずっと好きだったのに〜アスラン視点〜

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 アイシュは僕にとって、初恋だった。

 王家に叛逆の騒動があり、マデリーン王国に避難した際に出会った女の子。それがアイシュだった。

 生まれた時からマデリーン王国の王太子ウィリアムの婚約者で、公爵令嬢。

 両親とも兄とも離されてた当時五歳の僕には、アイシュとウィリアム、フローレンス公爵家の護衛騎士のリュカは、心の支えだった。

 三年間共に過ごし、情勢が落ち着いたクライゼン王国に戻った。

 アイシュと婚約したいと思ったけど、ウィリアムのことも好きだったから我慢した。

 十歳になった頃、兄上に婚約者が出来た。
 アイボリー公爵令嬢のフランチェスカだ。

 僕と同い年のフランチェスカは、本当なら僕の婚約者になる予定だったけど、兄上の年齢のご令嬢に、王太子妃になるに相応しい家格の令嬢がいなかったから、フランチェスカは兄上の婚約者になった。

 別にフランチェスカを好きだったわけでもないから、婚約者にならなかったことは気にならなかった。

 好きな相手というよりは、友人のような、気を遣わなくていい気楽な相手、それがフランチェスカだ。

 だから、アイシュのことも話した。
フランチェスカには、諦めずに奪ってみたらどうかと言われた。

 アイシュとウィリアムは完全な政略結婚らしいけど、二人は仲も良かったし、振られたくなくて告白する勇気はなかった。

 そろそろ婚約者を決めなければならない十六歳になった僕に、アイシュとウィリアムが婚約を解消するという情報が入ってきた。

 え?ウィリアムが浮気をした?
信じられなかったけど、政略結婚の二人だ。好きな相手と出会ったのかもしれない。

 急いで、マデリーン王国に向かった。
アイシュは身分も資質も容姿も、全てが優れている。

 のんびりしてたら他の男に奪われてしまう。

 婚約を申し込むと、幸いにもフローレンス公爵も認めてくれて、アイシュを婚約者にすることが出来た。

 ずっと大好きだったアイシュと婚約できて、僕は浮かれていた。

 フランチェスカとの距離が近いことをアイシュが気にしていたことも、フランチェスカが友人だと言いながらアイシュに対抗心を抱いていたことも、何も気づかなかった。

 フランチェスカの「アイシュがヤキモチ妬いてくれるかもよ」という言葉に、期待してしまった。

 だから、フランチェスカが僕にベタベタ触れてくることも、それのためだと思っていた。

 そんなことを繰り返していたある日、兄上が公務で留守になるのと同時に、アイシュも両親に会いに行くことになった。

 ついて行きたかったけど、兄上がいない間は兄上の公務もやるようにと父上から言われていた。

 まさか、僕たちの行為が父上にも兄上にも知られているなんて思いもしなかった。
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