私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜

33.もう少しだけ我慢してね

　しばらくはマデリーン王国に戻らない方が良い、という判断になった。

　お父様たちも、大丈夫だと分かったら知らせると言ってくれたし、何よりアスラン様が絶対に戻せないとおっしゃるから・・・

　私を誰にも渡したくないと・・・溺愛してくださるアスラン時に、胸が熱くなる。

　私は、国王陛下や王妃様、アスラン様たちのご好意に甘えて、もうしばらくはクライゼン王国にお世話になることにした。

　ありがたいことに、フランチェスカ様もとても喜んでくれて、私とアスラン様と三人で毎日過ごして下さる。

　というのも、フランチェスカ様の婚約者である王太子殿下は、私たちより五歳年上で、すでに公務をされているのでとてもお忙しいようなの。

　来年の婚姻のために、準備や公務の調整など色々としなければならないことがあるらしく、フランチェスカ様とも少し顔を合わせる程度の時間しか取れないみたい。

「わかってはいるけど寂しいから、かまってね」

　フランチェスカ様はそうおっしゃったけど、きっと国に戻ることが叶わず、家族と離れ離れの私を気遣ってくださってるのだと思う。

　アスラン様は「アイシュとの二人きりの時間を邪魔するなよ」なんておっしゃってたけど、いつもフランチェスカ様のお好きなお菓子を準備されたりしてるから、本当は仲良しなんだと思うわ。

「ごめんなさいね？アイシュ様。本当はアスランと二人きりになりたいでしょうに、わたくしがお邪魔して」

「いいえ、大丈夫です。それに私もフラン様と一緒にいられるのがとても楽しいです」

　私にとっては、初めてのお友達だもの。
　婚約者より、もっと特別だと言ったら、アスラン様は怒ってしまわれるかしらね。

　思わず自分の考えにクスクスと笑ってしまう。

　その様子に、アデラが首を傾げる。

「お嬢様？何か楽しいことがあったのですか？」

「ふふっ。ごめんなさい、思い出し笑いよ。ねぇ、アデラ。マデリーン王国に戻れなくて、寂しくない？ごめんなさいね？」

「私は、お嬢様のおそばにいられて、幸せです！」

「ありがとう、アデラ。私もアデラがそばにいてくれて幸せよ」

　本当に可愛いわ。
フローレンス公爵家でいたなら、ご両親とも毎日会えたのに、私が連れて来たせいで寂しいでしょうに。

　リュカは男だし、二十歳だから親が恋しくてということはないだろうけど、アデラはこないだ十歳になったばかり。

　親が恋しいと思って当たり前だ。

「アデラ。すぐには無理なの。もう少しだけ我慢してね。その代わり、私にできることはなんでもするから」

「・・・ッ、だ、大丈夫ですっ！ここにはお兄様も、何よりお嬢様がいますから！」

　私は優しくアデラの頭を撫でた。