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20.知らなかった気持ち
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ウィリアム殿下がいない。
そのことに戸惑うけれど、国王陛下たちにご挨拶しなければならない。
お父様たちもいるし、他国の第二王子であるアスラン殿下もいるから、大丈夫よね?
お父様たちと共に、国王陛下たちのもとに向かう。
ミリア様と目が合うと、微かに微笑んでくれた。
「アスラン殿下、フローレンス嬢、婚約おめでとう」
「「ありがとうございます、国王陛下」」
お祝いの言葉を下さる陛下の隣で、正妃様が私のことをジッと見ていた。
裏切ったわね、と思っているのかもしれない。
気持ちは分からないでもないけど、なぜ私が犠牲にならなければいけないの?
いいえ。
ウィリアム殿下も不幸になるわ。好きな相手と結ばれないんだもの。
正妃様は、決して側妃様やミリア様を見下したりしていない。
むしろ仲良くされていると思う。
それでも自身の息子が後継から外れるとなると、別問題なのかしら?
確かにウィリアム殿下は、王太子殿下として相応しい方だ。
それほどまでにウィリアム殿下を即位させたいのなら、その男爵令嬢様に厳しい教育を施せばよろしいのよ。
大好きな方のためだもの。
頑張れるのじゃないかしら。
結局、正妃様は何もおっしゃらず、私たちはその場を辞した。
私たちの後に他の公爵家、侯爵家と挨拶が続いた後、ダンスの始まりを知らせる音楽が流れ始める。
本来なら王太子殿下とその婚約者がファーストダンスを踊るのだけど、今回はミリア様が婚約者のシェリエメール帝国第二皇子殿下とファーストダンスを披露した。
「アイシュ。踊ってくれないか?」
「はい、アスラン様」
主催のファーストダンスの後は、各々が婚約者とダンスを踊る。
私はウィリアム殿下としか踊ったことがないので少し不安だったのだけど、アスラン様のリードは巧みでとても踊りやすかった。
「アスラン様は、とてもお上手なのですね」
「・・・実はすごく練習したんだ。その・・・アイシュと踊りたくて」
「う、嬉しいです」
私は、当たり前のようにウィリアム殿下のエスコートでパーティーに出席し、当たり前のようにウィリアム殿下のリードでダンスを踊り、当たり前のように月に二回のお茶会で顔を合わせていた。
私が殿下の足を引っ張らないように完璧であるのは当たり前で、殿下の失敗も誰にも気付かれないようにフォローするのも当たり前だった。
だから・・・
こんなふうに、私のために誰かが努力してくれることがこんなに嬉しいなんて知らなかった。
もしかしたら、ウィリアム殿下も男爵令嬢様にそんな気持ちを抱いたのかもしれないわ。
そのことに戸惑うけれど、国王陛下たちにご挨拶しなければならない。
お父様たちもいるし、他国の第二王子であるアスラン殿下もいるから、大丈夫よね?
お父様たちと共に、国王陛下たちのもとに向かう。
ミリア様と目が合うと、微かに微笑んでくれた。
「アスラン殿下、フローレンス嬢、婚約おめでとう」
「「ありがとうございます、国王陛下」」
お祝いの言葉を下さる陛下の隣で、正妃様が私のことをジッと見ていた。
裏切ったわね、と思っているのかもしれない。
気持ちは分からないでもないけど、なぜ私が犠牲にならなければいけないの?
いいえ。
ウィリアム殿下も不幸になるわ。好きな相手と結ばれないんだもの。
正妃様は、決して側妃様やミリア様を見下したりしていない。
むしろ仲良くされていると思う。
それでも自身の息子が後継から外れるとなると、別問題なのかしら?
確かにウィリアム殿下は、王太子殿下として相応しい方だ。
それほどまでにウィリアム殿下を即位させたいのなら、その男爵令嬢様に厳しい教育を施せばよろしいのよ。
大好きな方のためだもの。
頑張れるのじゃないかしら。
結局、正妃様は何もおっしゃらず、私たちはその場を辞した。
私たちの後に他の公爵家、侯爵家と挨拶が続いた後、ダンスの始まりを知らせる音楽が流れ始める。
本来なら王太子殿下とその婚約者がファーストダンスを踊るのだけど、今回はミリア様が婚約者のシェリエメール帝国第二皇子殿下とファーストダンスを披露した。
「アイシュ。踊ってくれないか?」
「はい、アスラン様」
主催のファーストダンスの後は、各々が婚約者とダンスを踊る。
私はウィリアム殿下としか踊ったことがないので少し不安だったのだけど、アスラン様のリードは巧みでとても踊りやすかった。
「アスラン様は、とてもお上手なのですね」
「・・・実はすごく練習したんだ。その・・・アイシュと踊りたくて」
「う、嬉しいです」
私は、当たり前のようにウィリアム殿下のエスコートでパーティーに出席し、当たり前のようにウィリアム殿下のリードでダンスを踊り、当たり前のように月に二回のお茶会で顔を合わせていた。
私が殿下の足を引っ張らないように完璧であるのは当たり前で、殿下の失敗も誰にも気付かれないようにフォローするのも当たり前だった。
だから・・・
こんなふうに、私のために誰かが努力してくれることがこんなに嬉しいなんて知らなかった。
もしかしたら、ウィリアム殿下も男爵令嬢様にそんな気持ちを抱いたのかもしれないわ。
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