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16.新たな婚約者です

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「アイシュ」

 久しぶりにお会いしたアスラン殿下は・・・私の記憶の中よりもずっと『男の人』になっていた。

 そりゃ、そうよね。
だって最後に会ったのは七歳の時だもの。

「お久しぶりでございます、クライゼン第二王子殿下。お元気そうで何よりですわ」

「アイシュ。昔みたいにアスランと呼んでくれないか」

「ですが・・・」

「頼むよ」

 眉を下げた、その情けない表情に懐かしさを感じた。

 帰ることになったアスランに、帰ったら嫌だと泣いてしまった私に、そんな困ったような顔をしていたわ。

「アスラン殿下」

「アスラン」

「アスラン・・・様」

 婚約者になると聞いたからお名前で呼べるけど、さすがに呼び捨ては無理よ。

 私が名前で呼ぶと、アスラン様は嬉しそうに頬を緩めた。

「アイシュ。改めて申し込みをさせて欲しい。アイシュ・フローレンス公爵令嬢。クライゼン王国第二王子、アスランが求婚いたします。どうか私の婚約者になって下さい」

「アスラン様・・・よろしくお願いします」

 私はアスラン様の差し出した手に、そっと自分のそれを重ねた。

 ウィリアム殿下との婚約解消は、アスラン様と婚約することで国王陛下が認めてくださるとのことだった。

 王妃様が何を言ったとしても、他国の王族と婚約すれば、ひっくり返すことはできないからって。

 ウィリアム殿下とのことは、お父様たちに任せておけば良いだろう。

 そもそも婚約とは家と家の契約なので、家長が対応するものなのだから。

 私は生まれた時からウィリアム殿下の婚約者だったし、今回のアスラン様との婚約も、最終的に判断するのはお父様だ。

 もちろんお父様は、ウィリアム殿下のことがあったので、私の意思を確認してくださったけど、私が殿下のようにただ好きだからと平民の方に嫁ぎたいと言ったとしたら、認めてくださらなかったと思うわ。

 だって、今まで人に傅かれてお世話されて生きてきた私が、自分で何もかもしなければならない生活をできるわけがないのよ。

 もちろん、それをできる人もいると思うわ。

 相手を愛しているなら、できるはずだと言う人もいると思う。

 でも、私は無理だわ。

 相手を好きなら努力したいとは思うけど、世の中そんなに甘くはないのよ。

 愛情でご飯は食べられないし、綺麗な服を着ることも出来ないわ。

 それに・・・
私はこれまでそうやって利益を享受してきたのだもの。

 フローレンス公爵家に利がある婚約をするべきだし、したいと思う。

 その相手が・・・

 幼い頃の大切ななら、きっと幸せになれるわ。
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