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3.婚約者がお茶会をお休みするそうです
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「アデラ。この手紙をウィリアム殿下宛に出してもらってくれる?」
私は鈴蘭の香りの香水をシュッと吹きかけると、封をした封筒をアデラに差し出した。
淡いグリーンに鈴蘭の型押しをされた便箋と封筒。
封蝋も鈴蘭。
マデリーン王国では、王族や高位貴族は自分の印を持っていて、私の印は鈴蘭だった。
ちなみにウィリアム殿下は、鷹の紋章で封蝋も鷹の横顔を模している。
「はい。あ。良い香り・・・」
「ふふっ。アデラはまだ若いから、香水よりもそうね・・・サシェなんかどうかしら?」
「サシェ、ですか?」
「ええ。小物や服に忍ばせておけば、ほんのりと香りが移るわ。今度、取り扱っている方をお呼びするから、一緒に選びましょう?」
私がそう言うと、アデラはとても嬉しそうに笑った。
「はい。ありがとうございます」
「じゃあ、手紙よろしくね?」
「はい!」
急いで出て行くアデラを見送り、私は小さく息を吐いた。
まだ九歳ということもあるけど、侍女であるアデラが香水を付けることはあまり勧められない。
それにうちは気にしないけど、使用人が香水やアクセサリーを付けることに、いい顔をしない貴族は多い。
お茶を淹れることが多いアデラだから、匂いが移る可能性を考えると、香水は控えた方がいい。
だけど、アデラも女の子。
お洒落をしたい気持ちを否定したくはない。
サシェなら、ハンカチや普段着にだけ香らせれば良い。
私は便箋を片付けながら、窓の外へと視線を向けた。
窓の外では、リュカがフローレンス公爵家の騎士たちと鍛練しているのが見えた。
実はウィリアム様から、今週フローレンス公爵家で行う予定だったお茶会に出席出来ないと、お断りのお手紙が届いたのだ。
お詫びのお言葉とお花、人気店のお菓子が添えられていた。
そのお心遣いに、また来月に王宮へお伺いする旨を認めたのだけど・・・
ウィリアム殿下とお茶会をするようになって十年余り・・・こんなことは初めてだった。
もちろん幼い頃と違い、最近のウィリアム殿下は公務もなさっている。
外せない公務があってもおかしくない。
むしろ今まで、一度もキャンセルがなかったことの方が不思議なくらいだ。
だから、私は全く気にしていなかったのだけど。
お茶会の中止を聞いたリュカの様子が、あからさまにおかしかった。
でも、何度聞いても「何でもありません」と答える。
挙げ句に、鍛錬に逃げた。
そんなに言いたくないなら、仕方ないわ。
もしかしたら、好きな人が出来たのかもしれない。
ずっと一緒だったから、家族みたいに思っていたけど、同性じゃなきゃ家族でも恋愛の話なんてしないわよね。
私は鈴蘭の香りの香水をシュッと吹きかけると、封をした封筒をアデラに差し出した。
淡いグリーンに鈴蘭の型押しをされた便箋と封筒。
封蝋も鈴蘭。
マデリーン王国では、王族や高位貴族は自分の印を持っていて、私の印は鈴蘭だった。
ちなみにウィリアム殿下は、鷹の紋章で封蝋も鷹の横顔を模している。
「はい。あ。良い香り・・・」
「ふふっ。アデラはまだ若いから、香水よりもそうね・・・サシェなんかどうかしら?」
「サシェ、ですか?」
「ええ。小物や服に忍ばせておけば、ほんのりと香りが移るわ。今度、取り扱っている方をお呼びするから、一緒に選びましょう?」
私がそう言うと、アデラはとても嬉しそうに笑った。
「はい。ありがとうございます」
「じゃあ、手紙よろしくね?」
「はい!」
急いで出て行くアデラを見送り、私は小さく息を吐いた。
まだ九歳ということもあるけど、侍女であるアデラが香水を付けることはあまり勧められない。
それにうちは気にしないけど、使用人が香水やアクセサリーを付けることに、いい顔をしない貴族は多い。
お茶を淹れることが多いアデラだから、匂いが移る可能性を考えると、香水は控えた方がいい。
だけど、アデラも女の子。
お洒落をしたい気持ちを否定したくはない。
サシェなら、ハンカチや普段着にだけ香らせれば良い。
私は便箋を片付けながら、窓の外へと視線を向けた。
窓の外では、リュカがフローレンス公爵家の騎士たちと鍛練しているのが見えた。
実はウィリアム様から、今週フローレンス公爵家で行う予定だったお茶会に出席出来ないと、お断りのお手紙が届いたのだ。
お詫びのお言葉とお花、人気店のお菓子が添えられていた。
そのお心遣いに、また来月に王宮へお伺いする旨を認めたのだけど・・・
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そんなに言いたくないなら、仕方ないわ。
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