122 / 122
番外編:僕の全てで〜ジークハルト視点〜
しおりを挟む
「アリスティアが倒れたっ?」
いつも通りに執務室で仕事を片付けていたら、最愛の妻の侍女であるアンナが報告に現れた。
今日は確か、公爵夫人である義姉上と中庭でお茶をしていたはず。
慌てて、王太子妃の部屋に向かう。
「医師には見せたのか?」
「はい。先ほど、診察は終わりました」
「それで?」
「・・・申し訳ございません。ご容態については、アリスティア様ご自身からお聞きください」
目を伏せて、言いづらそうにするアンナに、心の臓がどくりと音を立てた。
ゆっくり息を吸って、気持ちを落ち着かせる。
大丈夫だ。
アリスティアが重大な病気なら、アンナが報告のためとはいえ離れるわけがない。
それに、このローゼンタール王国は医療分野も他国より発展している。
どんな病気であっても、必ず救ってみせる。
大丈夫。大丈夫。
「アリス。倒れたと聞いた。大丈夫かい?」
不安な気持ちが、アリスティアに伝わらないようにしたつもりだった。
だって不安なのは、アリスティア本人だろうから。
なのに、アリスティアはあっさりと僕の気持ちに気付いた。
「ジーク様?どうしてそんなに辛そうなのですか?」
「アリス・・・が倒れたと聞いて、君を失うんじゃないかと・・・怖くなった。ごめん。アリスの方がきっと怖いだろうに」
「ジーク様・・・」
アリスティアが、僕に手を差し伸べてくる。
ベッドに腰掛けて、クッションで背中を支えているアリスティアが、手を取った僕をそっと抱きしめる。
「アリス。医師は何と?」
「アンナからお聞きにならなかったのですね?」
「ああ。アリスから聞けと言われた。教えて欲しい。僕は絶対に君を救ってみせる。頼りないかもしれないけど、僕にできる全てで君を支えるから」
いつもいつも、君の存在が僕を支えてくれている。
だから、僕にできることは何でもする。
「頼りなくなどありませんわ。ジーク様はわたくしの、大切で頼り甲斐のある旦那様です。これからもずっとわたくしのそばにいて下さいませね?お父様」
「?」
「わたくしも新米の母親ですから、二人で頑張りましょうね?」
「!」
クスクスと笑うアリスティアの言った言葉は・・・
「え?」
「もう!アンナがジーク様を驚かそうと言うから。ジーク様。わたくし、病気ではありませんわ。ここに・・・わたくしたちの赤ちゃんが」
アリスティアの細い、折れそうな体の、まだ膨らみなんてないお腹に手を誘導される。
「赤・・・ちゃん?アリス、本当に?」
「ええ。だから泣かないでくださいませ、旦那様。お父様が泣き虫だと、子供に笑われますわよ」
そう言って笑うアリスティアの声も、少し涙声だ。
愛しい、誰よりも愛しい妻をそっと抱きしめる。
この先、何があっても・・・
この愛しい人と、大切な家族が、笑って自由に生きられるように僕にできることを全力でやっていこう。
この奇跡のような、毎日を大切にしながら。
**fin***
これにて番外編完結です。
最後までありがとうございました。
いつも通りに執務室で仕事を片付けていたら、最愛の妻の侍女であるアンナが報告に現れた。
今日は確か、公爵夫人である義姉上と中庭でお茶をしていたはず。
慌てて、王太子妃の部屋に向かう。
「医師には見せたのか?」
「はい。先ほど、診察は終わりました」
「それで?」
「・・・申し訳ございません。ご容態については、アリスティア様ご自身からお聞きください」
目を伏せて、言いづらそうにするアンナに、心の臓がどくりと音を立てた。
ゆっくり息を吸って、気持ちを落ち着かせる。
大丈夫だ。
アリスティアが重大な病気なら、アンナが報告のためとはいえ離れるわけがない。
それに、このローゼンタール王国は医療分野も他国より発展している。
どんな病気であっても、必ず救ってみせる。
大丈夫。大丈夫。
「アリス。倒れたと聞いた。大丈夫かい?」
不安な気持ちが、アリスティアに伝わらないようにしたつもりだった。
だって不安なのは、アリスティア本人だろうから。
なのに、アリスティアはあっさりと僕の気持ちに気付いた。
「ジーク様?どうしてそんなに辛そうなのですか?」
「アリス・・・が倒れたと聞いて、君を失うんじゃないかと・・・怖くなった。ごめん。アリスの方がきっと怖いだろうに」
「ジーク様・・・」
アリスティアが、僕に手を差し伸べてくる。
ベッドに腰掛けて、クッションで背中を支えているアリスティアが、手を取った僕をそっと抱きしめる。
「アリス。医師は何と?」
「アンナからお聞きにならなかったのですね?」
「ああ。アリスから聞けと言われた。教えて欲しい。僕は絶対に君を救ってみせる。頼りないかもしれないけど、僕にできる全てで君を支えるから」
いつもいつも、君の存在が僕を支えてくれている。
だから、僕にできることは何でもする。
「頼りなくなどありませんわ。ジーク様はわたくしの、大切で頼り甲斐のある旦那様です。これからもずっとわたくしのそばにいて下さいませね?お父様」
「?」
「わたくしも新米の母親ですから、二人で頑張りましょうね?」
「!」
クスクスと笑うアリスティアの言った言葉は・・・
「え?」
「もう!アンナがジーク様を驚かそうと言うから。ジーク様。わたくし、病気ではありませんわ。ここに・・・わたくしたちの赤ちゃんが」
アリスティアの細い、折れそうな体の、まだ膨らみなんてないお腹に手を誘導される。
「赤・・・ちゃん?アリス、本当に?」
「ええ。だから泣かないでくださいませ、旦那様。お父様が泣き虫だと、子供に笑われますわよ」
そう言って笑うアリスティアの声も、少し涙声だ。
愛しい、誰よりも愛しい妻をそっと抱きしめる。
この先、何があっても・・・
この愛しい人と、大切な家族が、笑って自由に生きられるように僕にできることを全力でやっていこう。
この奇跡のような、毎日を大切にしながら。
**fin***
これにて番外編完結です。
最後までありがとうございました。
196
お気に入りに追加
3,901
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(248件)
あなたにおすすめの小説
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
【完結】もう結構ですわ!
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。
愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/11/29……完結
2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位
2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位
2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位
2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位
2024/09/11……連載開始
もう一度あなたと?
キムラましゅろう
恋愛
アデリオール王国魔法省で魔法書士として
働くわたしに、ある日王命が下った。
かつて魅了に囚われ、婚約破棄を言い渡してきた相手、
ワルター=ブライスと再び婚約を結ぶようにと。
「え?もう一度あなたと?」
国王は王太子に巻き込まれる形で魅了に掛けられた者達への
救済措置のつもりだろうけど、はっきり言って迷惑だ。
だって魅了に掛けられなくても、
あの人はわたしになんて興味はなかったもの。
しかもわたしは聞いてしまった。
とりあえずは王命に従って、頃合いを見て再び婚約解消をすればいいと、彼が仲間と話している所を……。
OK、そう言う事ならこちらにも考えがある。
どうせ再びフラれるとわかっているなら、この状況、利用させてもらいましょう。
完全ご都合主義、ノーリアリティ展開で進行します。
生暖かい目で見ていただけると幸いです。
小説家になろうさんの方でも投稿しています。
【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない
曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが──
「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」
戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。
そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……?
──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。
★小説家になろうさまでも公開中
【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。
やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。
落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。
毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。
様子がおかしい青年に気づく。
ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。
ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
最終話まで予約投稿済です。
次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。
ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。
楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。
【完結】都合のいい女ではありませんので
風見ゆうみ
恋愛
アルミラ・レイドック侯爵令嬢には伯爵家の次男のオズック・エルモードという婚約者がいた。
わたしと彼は、現在、遠距離恋愛中だった。
サプライズでオズック様に会いに出かけたわたしは彼がわたしの親友と寄り添っているところを見てしまう。
「アルミラはオレにとっては都合のいい女でしかない」
レイドック侯爵家にはわたししか子供がいない。
オズック様は侯爵という爵位が目的で婿養子になり、彼がレイドック侯爵になれば、わたしを捨てるつもりなのだという。
親友と恋人の会話を聞いたわたしは彼らに制裁を加えることにした。
※独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。
ごめんなさい、お姉様の旦那様と結婚します
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
しがない伯爵令嬢のエーファには、三つ歳の離れた姉がいる。姉のブリュンヒルデは、女神と比喩される程美しく完璧な女性だった。端麗な顔立ちに陶器の様に白い肌。ミルクティー色のふわふわな長い髪。立ち居振る舞い、勉学、ダンスから演奏と全てが完璧で、非の打ち所がない。正に淑女の鑑と呼ぶに相応しく誰もが憧れ一目置くそんな人だ。
一方で妹のエーファは、一言で言えば普通。容姿も頭も、芸術的センスもなく秀でたものはない。無論両親は、エーファが物心ついた時から姉を溺愛しエーファには全く関心はなかった。周囲も姉とエーファを比較しては笑いの種にしていた。
そんな姉は公爵令息であるマンフレットと結婚をした。彼もまた姉と同様眉目秀麗、文武両道と完璧な人物だった。また周囲からは冷笑の貴公子などとも呼ばれているが、令嬢等からはかなり人気がある。かく言うエーファも彼が初恋の人だった。ただ姉と婚約し結婚した事で彼への想いは断念をした。だが、姉が結婚して二年後。姉が事故に遭い急死をした。社交界ではおしどり夫婦、愛妻家として有名だった夫のマンフレットは憔悴しているらしくーーその僅か半年後、何故か妹のエーファが後妻としてマンフレットに嫁ぐ事が決まってしまう。そして迎えた初夜、彼からは「私は君を愛さない」と冷たく突き放され、彼が家督を継ぐ一年後に離縁すると告げられた。
【完結】愛してるなんて言うから
空原海
恋愛
「メアリー、俺はこの婚約を破棄したい」
婚約が決まって、三年が経とうかという頃に切り出された婚約破棄。
婚約の理由は、アラン様のお父様とわたしのお母様が、昔恋人同士だったから。
――なんだそれ。ふざけてんのか。
わたし達は婚約解消を前提とした婚約を、互いに了承し合った。
第1部が恋物語。
第2部は裏事情の暴露大会。親世代の愛憎確執バトル、スタートッ!
※ 一話のみ挿絵があります。サブタイトルに(※挿絵あり)と表記しております。
苦手な方、ごめんなさい。挿絵の箇所は、するーっと流してくださると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
読み応えがありハッピーエンドですので、安心して読む事が出来ました。
とても楽しいお話を有難うございました。
読んでいただき、ありがとうございました😊
完結おめでとう㊗御座います!!
遠回りな二人の元についに赤ちゃん!!
(⸝⸝⸝ᵒ̴̶̷̥́ ⌑ ᵒ̴̶̷̣̥̀⸝⸝⸝)♡*゜
二人とも…いや、3人(増える?)共お幸せに!!(*´艸`)
最後までお付き合いいただきありがとうございます😊
最初はみんなに嫌われていたジークが、受け入れてもらえて本当によかったです。
また次作でお会いできますように。
完結㊗️おめでとうございます🎉
ダブルヒロインが揃い踏みという少し珍しい設定で、あっちの国とこっちの国とでそれぞれ色々起こり…読み応えがありました
面白かったです
最後までお付き合いいただきありがとうございました😊
面白いと言っていただき嬉しいです。
また次作でお会いできますように。