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番外編:何かも失って①〜エリック視点〜
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「おい。これをアッチに運んでおいてくれ」
「はい!」
毎日、毎日、荷物運びを朝から晩まで繰り返す。
あの日、有無を言わさず騎士たちにシュワルミット王国へと連行された。
そして、奴隷だという証拠の紋を手の甲に刻まれた。
二度と、この場所から逃げることが叶わない印・・・
どれだけ文句を言っても、どれだけ反抗しても、誰も相手にしてくれない。
殴られたりすることはない。
だが、働かなければ食事を与えてもらえなかった。
逃げようとは思わない。
僕たちが連れてこられたその日に、脱走しようとした人間が、身体中に走る痛みで悶絶しているのを見たからだ。
その痛みは、奴隷紋を刻む魔法使いたちでなければ消せないという。
痛みで心臓が根を上げることもある、と他の奴隷から聞いた。
どれだけ僕が王族だと言っても、誰も従ってはくれない。
三日経つ頃には、諦めて仕事をするようになった。
空腹に耐えられなくなったからだ。
王族、しかも王太子だった僕には肉体労働の経験などない。
そのため、重さの比較的軽い荷物を運ぶ仕事に回された。
王宮で食べていた食事とは、天と地ほどの差がある。
それでも、一日中働いてやっと口にできる食事は、今まで食べたものの中で一番美味しいと感じた。
「おい、エル。お前の嫁さん、またやらかしたみたいだぞ」
「・・・嫁じゃないよ。たまたま同じところから来ただけだ」
僕はここではエルと呼ばれている。
そして、嫁と呼ばれているのは、セオドア王国から僕と一緒に送られてきたユリアだ。
最初、僕たちは自分たちのことを「王族だ」「王太子だ」「王太子妃よ」とか喚いていたから、それを聞いていた他の奴隷たちから夫婦だと思われたらしい。
確かに僕は、ユリアのことを愛しいと思った。
親の決めた生まれながらの婚約者と違い、屈託なく笑い、明るく可愛いユリアが婚約者だったらいいのにと思った。
でも今思うのは、あの頃の自分に伝えることができるのなら・・・
「彼女はお前の『王太子』という地位しか見ていない。ちゃんと婚約者と向き合え」
親に決められた婚約者。
母上から、僕の妻になるための教育を受けていたアリスティアと交流する機会は少なく、僕は気晴らしに出かけた街でユリアと出会ったのだ。
アリスティアが王太子妃、王妃になることは決まっている。
だから、ユリアとの恋を楽しんだ。
それなのに、知らない間に婚約はなくなっていた。
僕はアリスティアを、特別な感情で見たことがない。
だから、ユリアが婚約者になることを心から喜んだ。
まさか、ユリアがあんなにも何も出来なくて、しかもあんな尻軽だとは思わなかったんだ。
「はい!」
毎日、毎日、荷物運びを朝から晩まで繰り返す。
あの日、有無を言わさず騎士たちにシュワルミット王国へと連行された。
そして、奴隷だという証拠の紋を手の甲に刻まれた。
二度と、この場所から逃げることが叶わない印・・・
どれだけ文句を言っても、どれだけ反抗しても、誰も相手にしてくれない。
殴られたりすることはない。
だが、働かなければ食事を与えてもらえなかった。
逃げようとは思わない。
僕たちが連れてこられたその日に、脱走しようとした人間が、身体中に走る痛みで悶絶しているのを見たからだ。
その痛みは、奴隷紋を刻む魔法使いたちでなければ消せないという。
痛みで心臓が根を上げることもある、と他の奴隷から聞いた。
どれだけ僕が王族だと言っても、誰も従ってはくれない。
三日経つ頃には、諦めて仕事をするようになった。
空腹に耐えられなくなったからだ。
王族、しかも王太子だった僕には肉体労働の経験などない。
そのため、重さの比較的軽い荷物を運ぶ仕事に回された。
王宮で食べていた食事とは、天と地ほどの差がある。
それでも、一日中働いてやっと口にできる食事は、今まで食べたものの中で一番美味しいと感じた。
「おい、エル。お前の嫁さん、またやらかしたみたいだぞ」
「・・・嫁じゃないよ。たまたま同じところから来ただけだ」
僕はここではエルと呼ばれている。
そして、嫁と呼ばれているのは、セオドア王国から僕と一緒に送られてきたユリアだ。
最初、僕たちは自分たちのことを「王族だ」「王太子だ」「王太子妃よ」とか喚いていたから、それを聞いていた他の奴隷たちから夫婦だと思われたらしい。
確かに僕は、ユリアのことを愛しいと思った。
親の決めた生まれながらの婚約者と違い、屈託なく笑い、明るく可愛いユリアが婚約者だったらいいのにと思った。
でも今思うのは、あの頃の自分に伝えることができるのなら・・・
「彼女はお前の『王太子』という地位しか見ていない。ちゃんと婚約者と向き合え」
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母上から、僕の妻になるための教育を受けていたアリスティアと交流する機会は少なく、僕は気晴らしに出かけた街でユリアと出会ったのだ。
アリスティアが王太子妃、王妃になることは決まっている。
だから、ユリアとの恋を楽しんだ。
それなのに、知らない間に婚約はなくなっていた。
僕はアリスティアを、特別な感情で見たことがない。
だから、ユリアが婚約者になることを心から喜んだ。
まさか、ユリアがあんなにも何も出来なくて、しかもあんな尻軽だとは思わなかったんだ。
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