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遠回りをしたけれど

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「わたくしをどうかジークハルト様の婚約者にして下さい」

 言ってしまいました。

 いえ、本心ですから言うのは構わないのですが、こんなことをお願いしたら優しいジークハルト様は拒めないのではないかと、不安に思っていたのです。

 でもジークハルト様が、命尽きる時までわたくしに笑っていて欲しいなどとおっしゃるから・・・

 我慢できずに涙が溢れてしまったのです。

 わたくしの嬉し涙を、ジークハルト様は誤解されて「婚約しろなどと言わない」とおっしゃいます。

 違うのです。

 わたくし、わたくし、あまりにジークハルト様のお気持ちが嬉しくて。

 だから本心が口をついて出てしまいました。

 抱きついたわたくしに、ジークハルト様は何もおっしゃいません。

 もしかしてご迷惑だったのかしら?

 それとも抱きつくなんて、令嬢の振る舞いとして相応しくないと呆れられてしまわれたの?

 そっと顔を上げると、真っ赤になったジークハルト様と目が合いました。

「ジークハルト様?」

「こ、これは夢では・・・」

「ジークハルト様?」

「夢でもいい。こんな幸せな夢なら」

 ジークハルト様はそうおっしゃると、さらにギュッと私を抱きしめます。

 その腕の力強さに、胸が締め付けられる思いがしました。

 というか、締め付けられてます。

「い、痛いです。ジークハルト様っ」

「え、あ、え、ごっ、ごめん!」

「このままで。でももう少しだけ、力を緩めて下さいませ」

 離れたいわけではありませんの。

 どうするのが正しいのか、ずっと考えていて。
 なかなか勇気が出せなくて。

 だから、ジークハルト様に自分の気持ちをお伝えできたことに、本当にホッとしているのです。

 わたくし、気付きましたの。

 今まで、周囲に振り回されて自分の気持ちを優先することなど許されず、恋ひとつ知らずに生きて来ました。

 そんなわたくしにとって、誰かに想われることより、誰かを想うことがどれほど大切なことなのか。

「アリスティア嬢」

「はい」

「どうか僕と婚約して欲しい。君が好きなんだ。他の誰にも渡したくないほどに」

 ジークハルト様のお言葉に、また涙が溢れてしまいそうです。

「嬉しいです。不束者ですがよろしくお願いします」

「僕の方こそ不束者だけど、アリスティア嬢のことは絶対に幸せにする」

 ふふっ。
わたくしたち、随分と遠回りいたしましたけど、きっとそれがなかったら、今はなかったのではないでしょうか。

 遠回りしたからこそ、わたくしは恋を知りました。

 この先また何かあったとしても、きっと今回のように二人で言葉を交わして、ちゃんと歩み寄れると思いますわ。


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