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お兄様、頑張りますわ
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ジークハルト様は、わたくしのただならぬ雰囲気を感じたのか、快く丘に向かうことを了承してくださいました。
「本当だ。街が一望できるね。アリスティア嬢にここを教えて下さった奥方は、きっとこの街を誇りに思っているんだろうな」
「素敵なことですわね」
自分の住んでいる街を誇りに思う。
とても素敵なのとだと思います。
そしていずれこの国を背負って立つジークハルト様は、誰もがそう思える国にしたいと思われているのでしょう。
「そうだね」
「・・・ジークハルト様。わたくし、ジークハルト様にお願いがあります」
「なにかな?何なりと」
わたくし、頑張って一歩踏み出しますわ。
断られたらと思うと、怖くて仕方ありませんけど。
でも、わたくしが踏み出さなければジークハルト様を失ってしまうから、だからお兄様はわたくしを送り出して下さったんですよね?
だから。
だから。
「ジークハルト様・・・ジークハルト様がこの国を背負って立たれる時、その隣でジークハルト様をお支えする役目を、わたくしにさせて下さいませ」
「・・・・・・」
え?何か言って下さい、ジークハルト様。
ちゃんと目を見て言えなかったから、ちゃんと伝わらなかった?
それとも、婚約を撤回させておきながら、なにを言っていると思ってらっしゃる?
おそるおそる顔を上げます。
目に映ったのは、その端正なお顔を真っ赤にされたジークハルト様でした。
み、耳まで真っ赤ですわ。
初めて見ました。こんなジークハルト様。
わたくしを好きだとおっしゃって、王命での婚約を伝えてこられた時も、こんな表情はされていませんでしたわ。
わたくしの顔にも、熱がたまっていくのが分かります。
恥ずかしくてまた俯くと、視線の先にジークハルト様のつま先が見えました。
そして、すらっとしているのに骨張っていて、わたくしよりも大きい手が、わたくしの指先に触れます。
「アリスティア嬢。それは・・・公爵家の娘として王家を支えてくれるということ?」
「違っ・・・いえ、違いませんけど、そうではなくて」
「・・・僕の自惚れや勘違いでないのなら、僕から申し込んでもいい?」
わたくしの指を取るジークハルト様の手の熱さに。
わたくしを見つめるジークハルト様の視線の熱に。
一歩踏み出す怖さを知っていながら、それでもわたくしからでなく、自分からおっしゃってくださろうとする想いに。
わたくしはコクコクと頷くことしかできませんでした。
ジークハルト様は、わたくしの指先を手に取ったまま、その場に片膝をつかれます。
俯いたわたくしの瞳に、ジークハルト様の銀の瞳が映りました。
「本当だ。街が一望できるね。アリスティア嬢にここを教えて下さった奥方は、きっとこの街を誇りに思っているんだろうな」
「素敵なことですわね」
自分の住んでいる街を誇りに思う。
とても素敵なのとだと思います。
そしていずれこの国を背負って立つジークハルト様は、誰もがそう思える国にしたいと思われているのでしょう。
「そうだね」
「・・・ジークハルト様。わたくし、ジークハルト様にお願いがあります」
「なにかな?何なりと」
わたくし、頑張って一歩踏み出しますわ。
断られたらと思うと、怖くて仕方ありませんけど。
でも、わたくしが踏み出さなければジークハルト様を失ってしまうから、だからお兄様はわたくしを送り出して下さったんですよね?
だから。
だから。
「ジークハルト様・・・ジークハルト様がこの国を背負って立たれる時、その隣でジークハルト様をお支えする役目を、わたくしにさせて下さいませ」
「・・・・・・」
え?何か言って下さい、ジークハルト様。
ちゃんと目を見て言えなかったから、ちゃんと伝わらなかった?
それとも、婚約を撤回させておきながら、なにを言っていると思ってらっしゃる?
おそるおそる顔を上げます。
目に映ったのは、その端正なお顔を真っ赤にされたジークハルト様でした。
み、耳まで真っ赤ですわ。
初めて見ました。こんなジークハルト様。
わたくしを好きだとおっしゃって、王命での婚約を伝えてこられた時も、こんな表情はされていませんでしたわ。
わたくしの顔にも、熱がたまっていくのが分かります。
恥ずかしくてまた俯くと、視線の先にジークハルト様のつま先が見えました。
そして、すらっとしているのに骨張っていて、わたくしよりも大きい手が、わたくしの指先に触れます。
「アリスティア嬢。それは・・・公爵家の娘として王家を支えてくれるということ?」
「違っ・・・いえ、違いませんけど、そうではなくて」
「・・・僕の自惚れや勘違いでないのなら、僕から申し込んでもいい?」
わたくしの指を取るジークハルト様の手の熱さに。
わたくしを見つめるジークハルト様の視線の熱に。
一歩踏み出す怖さを知っていながら、それでもわたくしからでなく、自分からおっしゃってくださろうとする想いに。
わたくしはコクコクと頷くことしかできませんでした。
ジークハルト様は、わたくしの指先を手に取ったまま、その場に片膝をつかれます。
俯いたわたくしの瞳に、ジークハルト様の銀の瞳が映りました。
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