2度目の人生は好きにやらせていただきます

みおな

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踏み出した一歩

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「素敵なのが見つかって良かったね」

 アルディスの街には、多くの織物工房があります。

 ジークハルト様とできるだけ多くの工房を覗かせていただき、その中で中堅クラスの工房で、とても素敵な生地を発見いたしました。

 ローゼンタール王国の花嫁衣装は、ベースが白で、花婿の瞳か髪色の刺繍を入れるのが一般的です。

 お兄様は青い髪に銀の瞳をされていますから、青か銀の刺繍を入れることになると思います。

 その工房で見つけた生地は光沢があり、光の加減で銀色に見えたのです。

 わたくしはその生地に即決したしました。

「はい」

「じゃあ、戻ろうか」

 ジークハルト様の言葉に、わたくしは馬車の方へ向かわれようとしたジークハルト様の腕を、ぎゅっと握りました。

 崖から飛び降りるくらい、胸がドキドキします。

 振り返ったジークハルト様のお顔が、とても驚いています。

 そうですわよね。
淑女がエスコートでもないのに、殿方の腕に触れるなんて、はしたないことです。

 ここに、セオドア王国でのマナーの先生がいたなら、手の甲を叩かれましたわね。

「アリスティア、嬢?」

「あっ、あのっ、すっ、少しお散歩をしませんか?」

 先ほどの工房で、街が一望できる丘があると、工房主の奥様からお聞きしたのです。

 わたくしはお兄様とお話しして以来、ずっと考えていました。

 わたくしはジークハルト様のことを、どう思っているのか。

 ジークハルト様とどうなりたいのか。

 たくさん、たくさん考えました。

 王命での婚約をなくしておいて、ジークハルト様はわたくしと、もう婚約したくないのかもしれません。

 お兄様は単に、嫌われたくなくて言い出せないだけだとおっしゃっていましたけど。

 嫌ったりするわけがありませんのに。

 でも、自分がそれをジークハルト様にお願いしようと思った時、そのお気持ちが良くわかりました。

 断られたらと思ったら、怖くて、怖くて、口にする勇気が出ません。

 でも。

 でももし、勇気が出なくてこのままの関係でいたなら。

 王太子殿下であるジークハルト様は、もう十九歳です。

 婚約者を。そして婚姻をと言う意見は、きっと多くの貴族から出ていると思います。

 シャルロット様にお聞きしましたが、まだ婚約者候補のまま、誰とも婚約されていないご令嬢もいるそうです。

 ジークハルト様が、その方たちの誰かと婚約される。

 そう考えるだけで、今まで知らなかった気持ちが、胸を締めつけるのです。

 シャルロット様。お兄様。

 わたくし、勇気を持って一歩踏み出しますわ。

 だって、ジークハルト様を失うなんて絶対嫌なんです。

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