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エスコート

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 ジークハルト様と相談して、ドレスはスカイブルーのものにいたしました。

 お飾りも、ブルートパーズで統一いたします。

「髪色が淡いですから、淡い色だけですとぼんやりした印象になってしまいます。レースを濃い紫や黒などにすることをおすすめします」

「紫は、ブラシール様がお召しになる可能性が高いから、黒のレースにしてくださる?」

「かしこまりました。王太子殿下はいかがなさいますか?スカイブルーのお衣装を準備しましょうか?」

 デザイナーの方の言葉に、ジークハルト様は静かに首を横に振ります。

「いや、婚約者ではないのに揃いの服を着るものではない。僕は持っている濃いグレーを着るつもりだから」

 確かに、婚約者でもないのにお揃いの服を着るものではありません。

 でも・・・

「ジークハルト様。せめてお飾りだけでもお揃いにして下さいませんか?」

「え?いや、アリスティア嬢がいいなら僕はむしろ嬉しいが」

「ご無理をさせてしまうかもしれませんが、せっかく初めてエスコートしていただくので、その・・・」

 なんて伝えれば良いのかしら。
わたくし、ジークハルト様にもっと歩み寄りたいのです。

 勝手ですわね。
自由に好きなことがしたいからと、王命での婚約をお断りしたというのに。

 わたくしはどうしたいのかしら。
ジークハルト様と婚約したい?

 わたくし、自分の気持ちがよくわかりません。

 ただ、ジークハルト様はお優しいから・・・
 そのお優しさに甘えてしまってしまいます。

 ジークハルト様が他のご令嬢の手を取り、エスコートするのを見たくありません。

 ジークハルト様が他のご令嬢に優しく微笑みかけるのを見たくありません。

 あのまま、王命での婚約を受け入れていたら、こんな気持ちにはならなかったのかしら。

 でも、あのままだったら、こんな気持ちを知ることもなかった気がします。

「アリスティア嬢?」

「ジークハルト様。ご迷惑かもしれませんが、今回だけお揃いにしてくださいませ」

「迷惑?そんなわけないが?ちょっと待って、アリスティア嬢。すまないが退出してくれ。ドレスとお飾りは揃いで準備を」

「かしこまりました。失礼いたします」

 ジークハルト様が、デザイナーの方や護衛の方々をお部屋から退出させます。

 侍女たちも部屋から下がり、扉がほんの少し開かれた部屋は、わたくしとジークハルト様二人だけになりました。

「ジークハルト様?」

「アリスティア嬢の迷惑になりたくなかったから、言わないようにしていたのだが、聞いてもらえるだろうか」

 ジークハルト様は、ソファーに座るわたくしの前に跪き、わたくしを見つめられました。
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