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小さな積み重ね

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 クッキーをお渡しした翌日、ジークハルト殿下から綺麗な刺繍糸のプレゼントをいただきました。

 そのお返しに、いただいた刺繍糸でまたハンカチに刺繍をしてお渡ししたら、その翌日は市井で有名だというお菓子店の焼き菓子が届けられましたの。

 刺繍糸はわたくしだけでしたが、お菓子などはアンナやお母様たちにもお分けできるように多めにくださいました。

 王宮の侍女の方にお聞きしましたら、ちゃんと侍女や侍従たちの分も買ってあるのだそうです。

 そんなことが何度か繰り返され、わたくしはここ数日、ジークハルト殿下とお茶をいただくことが増えました。

 ジークハルト殿下は、騎士団での訓練をなさったり、図書室で本を読まれたりしているために、お探しするのが大変なのですわ。

 なので時間を決めて、その時間は中庭のガゼボでお茶をご一緒することに決まったのです。

 お忙しいでしょうに、ジークハルト殿下はわたくしさえ良ければかまわないとおっしゃってくださいました。

 最初は・・・
初めて会った記憶はわたくしには残っていませんので、従兄と言われても見知らぬ殿方でしかありませんでしたけど、ジークハルト殿下のわたくしへのお心遣いにはとても感謝しておりますの。

 ですから、わたくしもお話してみたいと思いましたのよ。

 わたくしは生まれた時からエリック殿下の婚約者だったために、自分のしたいことなどを口にすることが出来ませんでした。

 それでも幼い頃はよく分からず、言ったこともありました。

 ですが、セオドア王家の教育係の方々に叱責された記憶があります。

 王太子殿下の婚約者たるもの、殿下のため私利私欲は全て捨てて、王家と殿下のためだけに在るべきだと。

 それを疑問にも思わず、わたくしはエリック殿下のために頑張ってまいりました。

 でもエリック殿下は、他のご令嬢を好きになられた。

 だから、今度は自分の大切な人と自分のために在りたいと思ったのです。

 でも、いざ好きなことをしようと思ってみても・・・
 今まで何も求めてこなかったわたくしには、思い浮かぶことは限られていて。

 わたくしの中は、空っぽなのだと気付きました。

 だから。

 ひとつひとつ学ぶことにいたしました。

 何も出来ない。何も知らない。
だからこそ、わたくしは知って学んで理解しなければなりません。

 好きに生きたいなどと言っても、今まで甘やかされて育ったわたくしが市井でひとりで生きていけるわけがありません。

 教育こそは厳しかったですが、美味しい食事を与えられ、綺麗なドレスを着せてもらい、ふかふかのベッドで眠れていたのです。

 わたくしは、エリック殿下と家族以外の殿方と、親しくお話をしたこともお茶をいただいたこともありません。

 ジークハルト殿下とのお茶会は、わたくしにとって大切なお勉強の場なのです。

 
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