40 / 122
お渡しできましたわ
しおりを挟む
ジークハルト殿下は、図書室で本を読まれていました。
王太子殿下の側近の方にお聞きしましたの。
お部屋にいらっしゃらないのですもの。
ジークハルト殿下は、毎日図書室と騎士たちの訓練場に通われているそうです。
お食事も騎士たちと一緒に取ったり、自室で召し上がっているとか。
本日は雨が強くなったために、騎士たちの訓練は午前中で終わったそうですわ。
戦は雨など天候に関係なくおきますから、訓練がなくなることはないそうですが、わざわざ風邪をひく必要はありませんものね。
「ジークハルト殿下。少しよろしいでしょうか?」
「アリスティア嬢。どうしてここに・・・いや。かまわない。なんだろうか?」
「これを受け取ってくださいませんか?」
わたくしが差し出したのは、小さな包みです。
焼き上げたクッキーは不恰好で、綺麗な形のものを選り分けたら、数が少しになってしまいましたの。
わたくし、器用な方だと思っていたのですが、不器用だったみたいですわ。
「これは?甘い匂いがする」
「その、クッキーなのですが・・・見た目は不恰好ですが、味は悪くないと思うのです」
お父様もお母様もお兄様も、美味しいとおっしゃってくださいましたわ。
わたくしに甘いお母様たちですから、お世辞かもしれませんけど。
アンナも美味しいと言ってくれましたし、料理長も美味しいと・・・
「?」
「その、美味しくなければ、お返しくださってもかまいませんわ」
食べ物を捨てるわけにはいきませんから、作ったわたくしが責任を持って食べたいと思います。
「もしかして・・・アリスティア嬢の手作りなのか?」
「え?ええ。その貴族の娘として褒められたことではないのかもしれませんが、一度作ってみたくて。それと、あとこれを」
差し出したのは、ハンカチです。
わたくしが刺繍をいたしました。
お父様やお兄様を迎えに行って下さり、毎日お花を贈ってくださるジークハルト殿下に、何かお返しがしたい。
でもわたくしができるのは、この程度のことでした。
「・・・っ!ありがとう。宝物にする」
「ふふっ。ハンカチですからお使いになってください。クッキーも、お口に合わなければわたくしが食べますから、召し上がってみてください」
「アリスティア嬢が作ってくれたのなら、たとえ砂糖と塩が間違っていたとしても食べるよ」
そう言いながら、ジークハルト殿下は包みからひとつクッキーを摘み上げると、噛み締めるように食されました。
砂糖と塩・・・
大丈夫ですわ。焦げたのを食べましたけど、甘かったですもの。
王太子殿下の側近の方にお聞きしましたの。
お部屋にいらっしゃらないのですもの。
ジークハルト殿下は、毎日図書室と騎士たちの訓練場に通われているそうです。
お食事も騎士たちと一緒に取ったり、自室で召し上がっているとか。
本日は雨が強くなったために、騎士たちの訓練は午前中で終わったそうですわ。
戦は雨など天候に関係なくおきますから、訓練がなくなることはないそうですが、わざわざ風邪をひく必要はありませんものね。
「ジークハルト殿下。少しよろしいでしょうか?」
「アリスティア嬢。どうしてここに・・・いや。かまわない。なんだろうか?」
「これを受け取ってくださいませんか?」
わたくしが差し出したのは、小さな包みです。
焼き上げたクッキーは不恰好で、綺麗な形のものを選り分けたら、数が少しになってしまいましたの。
わたくし、器用な方だと思っていたのですが、不器用だったみたいですわ。
「これは?甘い匂いがする」
「その、クッキーなのですが・・・見た目は不恰好ですが、味は悪くないと思うのです」
お父様もお母様もお兄様も、美味しいとおっしゃってくださいましたわ。
わたくしに甘いお母様たちですから、お世辞かもしれませんけど。
アンナも美味しいと言ってくれましたし、料理長も美味しいと・・・
「?」
「その、美味しくなければ、お返しくださってもかまいませんわ」
食べ物を捨てるわけにはいきませんから、作ったわたくしが責任を持って食べたいと思います。
「もしかして・・・アリスティア嬢の手作りなのか?」
「え?ええ。その貴族の娘として褒められたことではないのかもしれませんが、一度作ってみたくて。それと、あとこれを」
差し出したのは、ハンカチです。
わたくしが刺繍をいたしました。
お父様やお兄様を迎えに行って下さり、毎日お花を贈ってくださるジークハルト殿下に、何かお返しがしたい。
でもわたくしができるのは、この程度のことでした。
「・・・っ!ありがとう。宝物にする」
「ふふっ。ハンカチですからお使いになってください。クッキーも、お口に合わなければわたくしが食べますから、召し上がってみてください」
「アリスティア嬢が作ってくれたのなら、たとえ砂糖と塩が間違っていたとしても食べるよ」
そう言いながら、ジークハルト殿下は包みからひとつクッキーを摘み上げると、噛み締めるように食されました。
砂糖と塩・・・
大丈夫ですわ。焦げたのを食べましたけど、甘かったですもの。
76
お気に入りに追加
3,901
あなたにおすすめの小説
【完結】もう結構ですわ!
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。
愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/11/29……完結
2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位
2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位
2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位
2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位
2024/09/11……連載開始
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない
曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが──
「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」
戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。
そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……?
──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。
★小説家になろうさまでも公開中
ごめんなさい、お姉様の旦那様と結婚します
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
しがない伯爵令嬢のエーファには、三つ歳の離れた姉がいる。姉のブリュンヒルデは、女神と比喩される程美しく完璧な女性だった。端麗な顔立ちに陶器の様に白い肌。ミルクティー色のふわふわな長い髪。立ち居振る舞い、勉学、ダンスから演奏と全てが完璧で、非の打ち所がない。正に淑女の鑑と呼ぶに相応しく誰もが憧れ一目置くそんな人だ。
一方で妹のエーファは、一言で言えば普通。容姿も頭も、芸術的センスもなく秀でたものはない。無論両親は、エーファが物心ついた時から姉を溺愛しエーファには全く関心はなかった。周囲も姉とエーファを比較しては笑いの種にしていた。
そんな姉は公爵令息であるマンフレットと結婚をした。彼もまた姉と同様眉目秀麗、文武両道と完璧な人物だった。また周囲からは冷笑の貴公子などとも呼ばれているが、令嬢等からはかなり人気がある。かく言うエーファも彼が初恋の人だった。ただ姉と婚約し結婚した事で彼への想いは断念をした。だが、姉が結婚して二年後。姉が事故に遭い急死をした。社交界ではおしどり夫婦、愛妻家として有名だった夫のマンフレットは憔悴しているらしくーーその僅か半年後、何故か妹のエーファが後妻としてマンフレットに嫁ぐ事が決まってしまう。そして迎えた初夜、彼からは「私は君を愛さない」と冷たく突き放され、彼が家督を継ぐ一年後に離縁すると告げられた。
もう一度あなたと?
キムラましゅろう
恋愛
アデリオール王国魔法省で魔法書士として
働くわたしに、ある日王命が下った。
かつて魅了に囚われ、婚約破棄を言い渡してきた相手、
ワルター=ブライスと再び婚約を結ぶようにと。
「え?もう一度あなたと?」
国王は王太子に巻き込まれる形で魅了に掛けられた者達への
救済措置のつもりだろうけど、はっきり言って迷惑だ。
だって魅了に掛けられなくても、
あの人はわたしになんて興味はなかったもの。
しかもわたしは聞いてしまった。
とりあえずは王命に従って、頃合いを見て再び婚約解消をすればいいと、彼が仲間と話している所を……。
OK、そう言う事ならこちらにも考えがある。
どうせ再びフラれるとわかっているなら、この状況、利用させてもらいましょう。
完全ご都合主義、ノーリアリティ展開で進行します。
生暖かい目で見ていただけると幸いです。
小説家になろうさんの方でも投稿しています。
【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。
やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。
落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。
毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。
様子がおかしい青年に気づく。
ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。
ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
最終話まで予約投稿済です。
次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。
ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。
楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。
【完結】伯爵令嬢の格差婚約のお相手は、王太子殿下でした ~王太子と伯爵令嬢の、とある格差婚約の裏事情~
瀬里
恋愛
【HOTランキング7位ありがとうございます!】
ここ最近、ティント王国では「婚約破棄」前提の「格差婚約」が流行っている。
爵位に差がある家同士で結ばれ、正式な婚約者が決まるまでの期間、仮の婚約者を立てるという格差婚約は、破棄された令嬢には明るくない未来をもたらしていた。
伯爵令嬢であるサリアは、高すぎず低すぎない爵位と、背後で睨みをきかせる公爵家の伯父や優しい父に守られそんな風潮と自分とは縁がないものだと思っていた。
まさか、我が家に格差婚約を申し渡せるたった一つの家門――「王家」が婚約を申し込んでくるなど、思いもしなかったのだ。
婚約破棄された令嬢の未来は明るくはないが、この格差婚約で、サリアは、絶望よりもむしろ期待に胸を膨らませることとなる。なぜなら婚約破棄後であれば、許されるかもしれないのだ。
――「結婚をしない」という選択肢が。
格差婚約において一番大切なことは、周りには格差婚約だと悟らせない事。
努力家で優しい王太子殿下のために、二年後の婚約破棄を見据えて「お互いを想い合う婚約者」のお役目をはたすべく努力をするサリアだが、現実はそう甘くなくて――。
他のサイトでも公開してます。全12話です。
【完結】都合のいい女ではありませんので
風見ゆうみ
恋愛
アルミラ・レイドック侯爵令嬢には伯爵家の次男のオズック・エルモードという婚約者がいた。
わたしと彼は、現在、遠距離恋愛中だった。
サプライズでオズック様に会いに出かけたわたしは彼がわたしの親友と寄り添っているところを見てしまう。
「アルミラはオレにとっては都合のいい女でしかない」
レイドック侯爵家にはわたししか子供がいない。
オズック様は侯爵という爵位が目的で婿養子になり、彼がレイドック侯爵になれば、わたしを捨てるつもりなのだという。
親友と恋人の会話を聞いたわたしは彼らに制裁を加えることにした。
※独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる