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別に撤回しなくても

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「王命の撤回ですか?」

 お母様とキャスリーン様と一緒にお買い物に出かける馬車の中、お母様からお伺いしたのは、わたくしに出された王命の撤回のお話でした。

 お母様がおっしゃるには、お祖父様と伯父様にお話して、婚約の王命を取り消すということです。

 あら?そうなのですね。

 わたくし、別にジークハルト殿下と婚約すること自体はかまわないのですけど。

 好きなことをさせていただければ、それで十分ですのに。

 殿下は、わたくしのことをずっと好きだったとおっしゃいました。

 わたくしはそれは吊り橋効果ではないかと思うのですが、それでも好いてくださることはありがたいと思いますわ。

 わたくしとエリック王太子殿下の婚約も同じ王命でしたが、わたくしも殿下のことを何とも思っておりませんでしたし、殿下も他の方をお好きになられましたから、完全に政略的なものでしたわ。

 ですから、ジークハルト殿下がわたくしのことを好きでいて下さるのでしたら、お互い良い関係を築けるのではないでしょうか。

「私たちはね、アリスティア好きになった相手と結ばれて欲しいの。王族の身内であるアリスティアが下位貴族や平民の方と結ばれるのには色々と障害があるけれど、もしアリスティアがどんな身分の方を好きになったとしても、私たちが必ず手を貸してあげる。私の可愛いお姫様。貴女のためなら何でもするわ」

「お母様・・・ありがとうございます。わたくし、お母様の娘でとても幸せですわ」

 本来なら、ジークハルト殿下との婚約を勧めてもおかしくないのに。

 ましてや公爵令嬢のわたくしが平民の方と想いを交わしても、成就させることは難しいことです。

 それなのに、わたくしが好きになったのなら、手を貸すとおっしゃってくださるのです。

「でも、ジークハルト殿下はそれを受け入れてくださったのですか?」

 殿下は幼い頃の恋に、囚われているようでしたのに。

「もちろん。のまないなら、二度と婚約はさせないと王妃様がおっしゃったそうよ。もちろん、アリスティアとの交流は止めないわ。あくまでも従兄妹としての交流だけど。過度な言動があればすぐに言いなさい。我慢する必要はないの。そして、もしアリスティアがジークハルトを好きになったなら、そう言ってくれればいいわ」

「でも、殿下はもう十九歳ですわ。婚約者がいないなんて」

「良いのよ。それを言われるのが嫌なら、誰とでも婚約すれば良いのだから。私の可愛いお姫様はそんなこと気にしなくていいの。貴女はあなたが幸せになることだけを考えてちょうだい」

「ありがとうございます、お母様」

 わたくし、お母様がいてくださるから、幸せですわ。
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