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したいことがたくさんありましたのに

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 わたくしは、ジークハルト殿下に気付かれないように、小さく息を吐きました。

 わたくしは生まれた時から、セオドア王国エリック王太子殿下の婚約者でした。

 当然、幼い頃から淑女教育に王子妃教育、学園に入学後に王太子妃教育。卒業して婚姻後に王妃教育と王太子妃としての公務がある予定でした。

 それがあの夢を見たことで、お父様やお母様が婚約の解消に動いて下さり、私は王太子殿下の婚約者ではなくなりました。

 今まで、セオドア王国から出ることも許されなかったので、心機一転お祖父様のいらっしゃるローゼンタール王国へ行きたいと両親にお願いしました。

 わたくしだけが赴くつもりでしたのに、何故か両親に、お兄様、お兄様の婚約者のご家族までもがローゼンタール王国へ居を移すことになり、わたくしはローゼンタール王国の公爵家の娘となりました。

 ええ。
ここまでは概ね予定通りですわ。

 家族やお兄様の婚約者のご家族までご一緒することになったのには驚きましたけど、転移陣を使えばわたくしたち家族は会えますけど、お兄様と婚姻されるまでは、キャスリーン様とは会うのが難しくなっていたと思います。

 ですから、ご一緒できたことは素直に嬉しいですわ。

 わたくしは公爵家の娘です。

 セオドア王国でも。ローゼンタール王国でも。

 ですから、何でも自由な行動ができるわけではありません。

 拐かされる恐れがありますから、市井に出かけることも良しとされません。

 行くとなると家族と一緒か、相当の人数の護衛と行くことになります。

 わたくしが髪を切るきっかけになった、エリック殿下との市井へのお出かけは異例中の異例でした。

 後でお聞きしたのですが、エリック殿下が無理を通されたのだとか。

 殿下は視察のために護衛の方を付けて、普段から市井に出かけられていたそうです。

 その煌めく金の髪を茶色に染められて。

 ですから殿下だけなら問題はなかったらしいのですが、わたくしが同行してしまい、護衛の方は相当渋られたそうです。

 当然ですわね。
優先してお守りするべきは王太子殿下。

 でも、わたくしのことも蔑ろにするわけにはいきません。

 少人数では護衛も大変ですもの。

 それをエリック殿下が無理を通されたので、あの後殿下は国王陛下に相当叱責されたそうです。

 それはともかく、ようやく王太子殿下の婚約者という枷から解き放たれ、わたくし自由になったと思いましたのに。

 してみたいことも、行ってみたいところも、たくさんありましたのに。

 わたくしも高位貴族の娘として、豊かな暮らしをしていることに対する義務があることは理解しています。

 でも!
王太子殿下の婚約者はもう結構ですわ!
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