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わたくしに拒否権はありませんわ

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「うーん、本人の了承を取りたかったんだけどな。仕方ない」

 ジークハルト殿下は、そう言うと一枚の紙をわたくしに差し出されました。

 王命と書かれたその紙には。

 わたくしとジークハルト殿下との婚約を命ずると書かれてあり、すでにジークハルト殿下のサインがされてあります。

 すでに決定事項ではありませんか。

 国王陛下・・・いえ、伯父様。
息子と姪の婚約を王命って、何故ですの?

「父上は、僕がアリスティア以外と婚約はしないと言ったから、仕方なく王命という形を取ったんだよ。お祖父様とお祖母様の許可も取ってあるし、叔母上には今頃お祖父様がお話してくださっている。僕はどうしても君がいいんだ」

 そこまで想っていただけるのは光栄なことですが、わたくしジークハルト殿下と面識はありませんわよね。

 すでに婚約の証明書が出来ているということは、わたくしがこの国に着く前には話が進んでいたということ。

 身内ではありますけど、どうしてそこまで?

「アリスティア嬢は覚えてなくて当たり前だけど、君が三歳くらいの時に会ったことがあるんだよ。その年は父上の手が離せなくて、僕が初めて君の誕生日の祝いを持って転移したんだ」

 お祖父様たちも伯父様も、毎年わたくしとお兄様に誕生日のお祝いをくださいます。

 わたくしが十歳になる頃まではお祖父様が、それ以前は伯父様が、直接公爵家まで持ってきてくださっていました。

 十歳以降は、わたくしも王家で王子妃教育があり、お会いすることはほとんどありませんでしたが、お祝いの品だけは必ず届いていました。

 三歳の頃の記憶はさすがにありませんが、わたくしより三歳年上のジークハルト殿下が転移陣で来られたとは驚きです。

 あの転移陣はローゼンタール王国の血を引いたものでないと発動できませんが、発動さえすれば発動者以外の人間も転移出来ます。

 ですが、発動者以外のものは、何というかいわゆる馬車酔いに似た感覚を味わうのですわ。

 慣れればそれも平気になりますが、ジークハルト殿下は今初めてとおっしゃいました。

「転移で気持ち悪くなった僕に、アリスティア嬢が水を持ってきてくれたんだ。もちろん持ってきたのは侍女だけど、君が手渡してくれたんだよ。その時、三歳の君に一目惚れしたんだ」

 それは何というか、吊り橋効果というものではないでしょうか?

 具合の悪い時に優しくされたから、そう思い込んだだけではないですか?

「あれから十三年もの片想いが勘違いだというなら、僕はもう恋なんて一生することはないと思うよ」

 そう言われると、何とも言えません。

 わたくしは確かに現在、お慕いする方もいませんし、婚約者もいません。

 王命で、お祖父様たちもご存知なら、わたくしに拒否権はありませんわね。
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