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巻き戻りの代償〜イングリス公爵夫人テレサ視点〜

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「とにかく、アリスティアには巻き戻りだと気付かれないように、進めましょう。あれは夢だったと思わせるようにね」

 旦那様にライアン、この部屋にいる使用人たちの顔をぐるりと見渡す。

 我がイングリス公爵家の使用人は、信用に足る人間ばかり。しかも有能。

 だからこそ、大切なお姫様を任せられた。

 でも学園の中にまで付いていくことは出来なかった。

 同い年の護衛を付けるべきだったわ。

 まさか学園のパーティーで、私の大切なお姫様が殺されるだなんて思わなかった。

 アリスティアが聖なる乙女でなかったら・・・

 私たちは、大切な大切なあの子を失っていたわ。

 他国でよく聞く聖女と、ローゼンタール王国の聖なる乙女は全くの別物。

 アリスティア自身は結界も張れないし、傷を癒すことも出来ない。

 あの子にできるのは、精霊たちにお願いして天候を操ったり、土壌を豊かにすること。

 精霊の力を借りれば、国を滅ぼすことも豊かにすることも出来る。

 聖なる乙女は、精霊に愛された子。

 今回の巻き戻りは、精霊があの子を助けるために行ったのよ。

 その代償として、あの子は大切にしていた感情を失った。

 あの王子エリックを愛していたという感情を。

 アリスティアは、婚約者のことを本当に愛していた。

 子供の頃は好きという感情だったのが、二人で市井に出かけた時から、それが愛情に変わっていったのだと思う。

 愛していたから・・・
あの王子が男爵令嬢にのぼせ上がっていたのを我慢した。

 王命で結ばれた婚約が解消されないと信じていたから。

 学園を卒業して婚姻すれば、あの男爵令嬢と出会う前の二人に戻れると、あの子は信じようとしていた。

 それをあの王子は・・・

 だから精霊は、王子に対する感情を代償に時を戻した。

 戻った時が、あの市井に出かけた日の直後だったのは、あの日からアリスティアの感情が変化したから。

 あの日がきっかけだったのよ。

 塗料がついた髪で、それでも嬉しそうに髪飾りを持ったあの子の笑顔が忘れられない。

 その感情を代償にすることで、精霊は時を巻き戻してアリスティアの命を繋いだ。

 精霊から聞かされていなければ、時が巻き戻ってるだなんて気付かなかった。

 そうしたらまた、同じ結末を迎えてしまっていたかもしれない。

 ローゼンタールの血を引いていて良かったと、こんなに思ったことはないわ。

 わざわざあの王家に手を下さなくても、精霊に愛されたアリスティアがこの国からいなくなれば、この国は間違いなく衰退して行くでしょう。

 今度は間違えない。
大切なお姫様を必ず幸せにしてみせるわ。

 
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