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最終話:私がそばにいたい人⑥〜ルーナ視点〜
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「母様~!見て見て!綺麗な花だよ」
駆けてきた息子を抱き上げようとしたら、横から伸びてきた腕が息子を抱き上げてしまった。
「あ!父様!おかえりなさい」
「ただいま、アル。母様のお腹には赤ちゃんがいるんだから、負担をかけてはいけないよ」
「うん、ごめんなさい母様」
素直に頷く息子は、私と同じ銀の髪に夫と同じ青い瞳で、今年六歳の誕生日を迎えた。
「ただいま、ルーナ」
「おかえりなさい、カイル」
頬にキスを受け、私は夫に微笑みかけた。
学園を退学し、他国を旅して回っていた私たちが結婚したのは二十歳の時だ。
というのも、アルフレッドを授かったことで、旅を中止してアデライン王国に戻ることになったのだ。
父と母だけでなく、ランス兄様やリリアナ様にまで引き止められ、私は出産までフィオレンサ公爵家に留まることにした。
両親に孫の顔を見せたい、という気持ちもあった。
そうこうしているうちに、王太子となったライアン殿下がカイルを側近としてしまい、王太子の側近が平民ではなどと言い出して、カイルは伯爵位を授けられてしまった。
領地まで与えられ、周囲から固められてしまい、出産後にまた旅に、というわけにはいかなくなった。
まぁ、長い間自由にさせてもらったという気持ちもある。
爵位も領地も欲しいとは思ってなかったし、子供が生まれても平民として生きていけば良いと思っていた。
その気持ちは今も変わらないけど、自分が親になることで、親の気持ちも少しはわかるようになった。
特にお母様は、自分のせいで私が国を出たことをすごく気にされていた。
私が国を出たのは、決して王妃様の件だけが理由ではないのだけどね。
私は自由でいたかった。
好きなところに好きな時に行って、好きなものを食べ好きなものを見て、何にも縛られない時間を過ごしたかった。
平民にだって、そんな自由がないことくらいわかってる。
平民は、生きていくためにお金を稼がなきゃならない。
だから、公爵家の令嬢という基盤があるから叶う自由だということも理解していた。
両親が・・・幼い頃から好き勝手する私を守っていてくれたから、私は自由でいられた。
それを理解したから、アデライン王国に戻ることを決めた。
またどこかに行きたくなったら、今度は子供が大きくなってから旅に出よう。
それまでは両親に親孝行して、友人たちと友好を深めよう。
アルフレッドに、お腹の中の赤ちゃん、まだまだ子供も増えるかもしれない。
「どうかした?」
「何でもないの。ただ、幸せだなって思って」
そっとお腹に手を当てる。
そんな私の肩を、アルフレッドと繋いだ手と逆の手で抱き寄せてくれる。
私たちはゆっくりとした足取りで、屋敷へと戻って行った。
空は今日も澄んでいて、旅に出たあの日と変わらない青さだった。
***fin***
駆けてきた息子を抱き上げようとしたら、横から伸びてきた腕が息子を抱き上げてしまった。
「あ!父様!おかえりなさい」
「ただいま、アル。母様のお腹には赤ちゃんがいるんだから、負担をかけてはいけないよ」
「うん、ごめんなさい母様」
素直に頷く息子は、私と同じ銀の髪に夫と同じ青い瞳で、今年六歳の誕生日を迎えた。
「ただいま、ルーナ」
「おかえりなさい、カイル」
頬にキスを受け、私は夫に微笑みかけた。
学園を退学し、他国を旅して回っていた私たちが結婚したのは二十歳の時だ。
というのも、アルフレッドを授かったことで、旅を中止してアデライン王国に戻ることになったのだ。
父と母だけでなく、ランス兄様やリリアナ様にまで引き止められ、私は出産までフィオレンサ公爵家に留まることにした。
両親に孫の顔を見せたい、という気持ちもあった。
そうこうしているうちに、王太子となったライアン殿下がカイルを側近としてしまい、王太子の側近が平民ではなどと言い出して、カイルは伯爵位を授けられてしまった。
領地まで与えられ、周囲から固められてしまい、出産後にまた旅に、というわけにはいかなくなった。
まぁ、長い間自由にさせてもらったという気持ちもある。
爵位も領地も欲しいとは思ってなかったし、子供が生まれても平民として生きていけば良いと思っていた。
その気持ちは今も変わらないけど、自分が親になることで、親の気持ちも少しはわかるようになった。
特にお母様は、自分のせいで私が国を出たことをすごく気にされていた。
私が国を出たのは、決して王妃様の件だけが理由ではないのだけどね。
私は自由でいたかった。
好きなところに好きな時に行って、好きなものを食べ好きなものを見て、何にも縛られない時間を過ごしたかった。
平民にだって、そんな自由がないことくらいわかってる。
平民は、生きていくためにお金を稼がなきゃならない。
だから、公爵家の令嬢という基盤があるから叶う自由だということも理解していた。
両親が・・・幼い頃から好き勝手する私を守っていてくれたから、私は自由でいられた。
それを理解したから、アデライン王国に戻ることを決めた。
またどこかに行きたくなったら、今度は子供が大きくなってから旅に出よう。
それまでは両親に親孝行して、友人たちと友好を深めよう。
アルフレッドに、お腹の中の赤ちゃん、まだまだ子供も増えるかもしれない。
「どうかした?」
「何でもないの。ただ、幸せだなって思って」
そっとお腹に手を当てる。
そんな私の肩を、アルフレッドと繋いだ手と逆の手で抱き寄せてくれる。
私たちはゆっくりとした足取りで、屋敷へと戻って行った。
空は今日も澄んでいて、旅に出たあの日と変わらない青さだった。
***fin***
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