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不敬でかまわない

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「ごきげんよう、ヘスティア王妃殿下」

 王宮の、王族以外立ち入れないはずの場所。

 王妃ヘスティアの私室のバルコニーに、ルーナは立っていた。

 ヘスティアは騎士を呼ぶための鈴を鳴らすが、一向に誰も入って来ない。

「お初にお目にかかります。ルーナ・フィオレンサですわ」

「え?ええ?ルーナちゃん?」

 一瞬驚いた表情になったヘスティアだが、ルーナの姿を改めて視界に入れたあと、満面の笑みを浮かべた。

「会いたかったわ!ねぇ、ライアンの婚約者になってくれない?ね?何でも望みは叶えてあげる。ライアンは見目も悪くないし、努力家なのよ」

 マシンガントークのヘスティアに、ルーナは笑みを浮かべたまま拘束魔法をかけた。

「え?なに・・・?な・・・・・・」

 途中から声が途切れ、パクパクと金魚が口を開けるように、空気の音だけが部屋に響く。

 もちろんルーナの魔法である。
結界を張ってあるので誰かが入ってくることはない。

 まぁ、王妃の私室に入ってくるとしたら、侍女か国王陛下くらいで、国王には手紙で来訪することは知らせてある。

 ヘスティアの動きを封じ、声まで封じたのは、彼女が全く人の話を聞こうとしないタイプだからだ。

 ルーナは、話し合いに来たわけではない。

 国を出る前にわざわざヘスティアの元を訪れたのは、この先王太子ライアンの婚約者となるアナに危害を加えたりしないように、釘を刺すためだった。

「ライアン殿下は、愛すべき方を見つけました。今、王妃殿下がおっしゃったように、見目麗しい努力家の女性です」

「・・・!・・・!」

「もし、王妃殿下が彼女を認めず、害をなそうとしたなら、私は貴女を絶対に許しません。私には今のように、動きも声も封じることが出来ます。言っている意味はご理解して下さいますね?」

 王妃を脅迫したなどと分かれば、フィオレンサ公爵家はお咎めを受けるかもしれない。

「会うことがなく噂で聞くばかりで、随分と私のことを美化して下さったみたいですが、私はこんなふうに残酷なことも平気な顔で出来る人間なんですよ?私は必要とあらば、このまま王妃殿下を亡きものにすることもできます」

「・・・!」

「国王陛下やうちの母が甘やかしたせいもあるのでしょう。私が自分の好きに生きるためにして来たことが、王族として国の利になると考えられたのも仕方のないことです。その点は申し訳ないと思います」

 ルーナは一旦言葉を切ると、ヘスティアをしっかりと見据えた。

「王妃としてでなく母親として、ライアン殿下やリリアナ殿下の幸せを考えてみてくれませんか?王妃殿下もお好きな方に嫁がれたからこそ、王妃として頑張って来られたのでしょう?」

 
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