悪役令嬢は推し活中〜殿下。貴方には興味がございませんのでご自由に〜

みおな

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断罪②

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「父上?」

 父親の視線に戸惑いながらも、アレックスは父親が自分を助けてくれると信じて疑わなかった。

 セルビア公爵にとって、アレックスは唯一の子供で、公爵は息子のことをとても可愛がっていたからだ。

 だから公爵の口から出た言葉に、アレックスは混乱した。

「アレックス。お前をセルビア公爵家から廃籍する」

「・・・は?な、何をおっしゃっているのです?父上。僕はセルビア公爵家の嫡子で・・・」

「ああ、そうだな。だが、やむ得ない。それから、お前とフィクサー侯爵令嬢との婚約はお前有責ですでに解消済みだ」

「ちょっと待ってくだ・・・・・・」

 父親に縋るように声を上げかけたアレックスは、父親のセルビア公爵のその手を見て、言葉が止まる。

 キツく握りしめた両手。
爪が食い込んでいるのか、足元にぽたりと血が落ちていた。

「政略結婚とはいえ、婚約を結ぶ前にお前には何度も確認したはずだ。婚約の解消はたとえお前有責といえどフィクサー侯爵令嬢にも傷が残る。お前が彼女が良いと言ったんだ」

「おじ様」

 メルティンがそっと手に触れ、爪で傷ついた手のひらにハンカチを当てる。

「ありがとう。つらい思いをさせたね。本当に申し訳なかった」

「いいえ。いいえ、おじ様」

「婚約後に誰かを好きになることもあるだろう。もしもそうなら、何故私に相談しなかった?何故フィクサー嬢に土下座してでも穏便に婚約の解消を願い出なかった?何故こんな愚かな選択しか出来なかったのだ?」

 父親の手に握られた血が滲むハンカチと、それ以上の・・・血の滲むような声に、アレックスは何も言うことが出来なかった。

 そうだ。
婚約者を決める時、父にも母にも何度もよく考えるようにと言われた。

 学園に入学すれば新たな出会いもあるだろうから、それからでも遅くはないと。

 だが、メルティンと婚約したいと言ったのは自分だった。

 優秀で公爵家を任せられるメルティンのことを両親も気に入っていた。

 何より、アレックスがメルティンとなら上手くやっていけると判断したのだ。

 いつからだろう。
メルティンのことを形だけの婚約者だと思うようになったのは。

 アレックスはメルティンを見上げた。

 メルティンはジッとアレックスを見ていた。
 先ほどまでの、道端の石を見るような目ではなく、悲しそうなそれでも侯爵令嬢として毅然とした表情で。

「アレックス・セルビア公爵令息様。王族である殿下に虚偽の言を述べたこと、そして公爵家から廃籍されたことで、貴方はこれから平民として生きていかなければなりません。高位貴族だった貴方には辛く苦しいことでしょう。ですがどうか、セルビア公爵様ご夫妻の子供である誇りを忘れずに、生きていって下さいませ。至らぬ婚約者で申し訳ございませんでした。お元気で」
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