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ある王子のひとり言①

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「その人がライアン様のことを好きだから、ライアン様に愛されている私に嫉妬したのよ」

 その内容に、あり得ないと思ってしまった。

 シシリーのことを好ましいと思っていたはずなのに。

 シシリー・リゾーラ嬢は男爵家の次女だ。
 ピンクブロンドの髪と瞳をした、良くも悪くも明るく前向きな少女。

 その自由さに、明るさに、どこか憧れに似たものを感じていたのは事実だ。

 王子として生まれ、多くの責任を負う立場を嫌だと思ったことはない。

 僕たちが食べる食事も、着る華やかな衣装も、世話をしてくれる侍従や侍女も、全てがその責任を果たすことで得られるものだ。

 だけど、母がフィオレンサ公爵家のご令嬢に婚約を願って断られたようだと侍従から聞いた時、僕も少しくらい自由になってもいいんじゃないか、と思ってしまった。

 アデライン国の王族は、結婚に関して身分がどうこうということはない。

 だが、好きな相手と結婚することは、王太子になる者には難しい。

 その相手が王太子妃、ひいては王妃に相応しくなければならないからだ。

 それは、双子の妹であるリリアナにもいえる。

 僕が王太子にならなければ、リリアナが立太子し、王太女となる。

 幸いにもリリアナは優秀だし、想い人のランスロットは、次期公爵だ。

 彼ならリリアナが降嫁しても、立太子しても、相応しい伴侶になれるだろう。

 僕は自分でもそれなりに優秀だと思っているが、伴侶となる相応しい婚約者がいない。

 シシリーは自分が婚約者になれると思っているらしいが、彼女には無理だ。

 王太子の婚約者として以前に、貴族としてのマナーも教養も不足している。

 それに、彼女は僕のことを好きなわけではないと思う。

 彼女が見ているのは、王太子になる男であって、僕ではない。

 それに、僕自身もシシリーの自由さに憧れただけであって、彼女自身を好きだと思ったことはない。

 母やリリアナに注意されて反抗してしまったが、今になると何故あんなにムキになったのか、自分でもよくわからない。

 そういえば、シシリーに会わなくても気にならなくなったのは、ここ最近だ。

 フィオレンサ公爵令嬢たちと一緒に魔法学の課題に取り組むようになってから、シシリーに対する気持ちが変化して来た気がする。

 一緒に作業しているアナ・オフリー嬢を間近で見ているせいかもしれない。

 シシリーと同じ男爵令嬢。
しかも元平民の彼女は、シシリーと違い努力を怠らない人だ。

 シシリーのように明るく屈託ないわけではないが、フィオレンサ嬢やリリアナを見る目は優しく、僕に対しても礼儀正しく接してくれる。

 彼女を見ていると、シシリーに出会う前の、責任感を持っていた王族としての自分に戻れる気がした。
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