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見た目と性格は比例しないらしい

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「あ、お母様!おかえりなさい」

 フィオレンサ公爵夫人のマーガレットは、王都内にある屋敷に戻った途端に、鈴を転がしたような軽やかで、且つ愛らしい声に出迎えを受けた。

「ルーナ。戻ってたの?」

 マーガレットは決して、王妃ヘスティアに嘘をついたわけではない。

 王宮にヘスティアからの招きを受けて出かける際には、ルーナはまだこの屋敷に戻って来ていなかったのだ。

 母親である自分と同じ銀髪は、腰のあたりまで真っ直ぐに伸びている。

 光の加減で金にも見える銀色の瞳は、吸い込まれそうなほど澄んでいた。

 容易く手折れそうな細い体に、日に焼けていない真っ白な肌。

 その儚げな容姿から、ルーナは『月の妖精姫』と呼ばれていた。

 だが。

「ええ。今朝、向こうを出たの。お土産たくさん準備したのだけど、馬車が着くまで待ってね」

「貴女、ラーラに乗って帰って来たの?いい加減侍女たちみんなを心配させるのはやめなさい」

「大丈夫よ。ラーラは幼い頃から私と一緒だもの。私を落としたりしないわ」

 ラーラとは、真っ白な牝馬である。

 ルーナの愛馬であり、どこに行くにもルーナは馬車などよりラーラに乗って移動するため、フィオレンサ公爵家の侍女たちはルーナを追いかけるのに苦労していた。

 本人の言う通り、ラーラがルーナを落とすようなことはないと思えるほど、ルーナの騎馬術は優れているが、事故というものは予想つかないものである。

 儚げな容姿の敬愛するご令嬢に万が一のことがあっては、と侍女も護衛騎士もラーラでの移動をやめてくれるよう懇願しているのだが、本人は全く気にも留めない。

 見た目に反して、中身は勝ち気で豪胆なご令嬢なのである。

 年頃の公爵令嬢が、馬車で一日かかる距離の公爵領に愛馬で出かけることを注意するべきなのだが、マーガレットにはそれができない。

 何せ若い頃は、マーガレット自身も夫となった当時婚約者のシリウスと、旅と称して放浪生活をしていたのだ。

 見た目こそは儚く愛らしいルーナだが、中身は間違いなく両親似である。

「あ。コレはここに入れてたんだったわ。はい!お母様」

 ルーナが腰袋から拳大の布袋を取り出すと、マーガレットの手のひらに乗せる。

「私、湯浴みして着替えるわ。お父様は?」

「もちろんお仕事よ。みんなは夜には戻るのよね?じゃあ今夜は、ルーナの好物にしましょう。若鶏がいいかしらね、それにベリーのケーキも」

「嬉しい!大好きっ、お母様」

 マーガレットに抱きついて頬にチュッとキスを落とすと、ルーナはご機嫌で屋敷の奥へと入って行った。

 マーガレットは苦笑いしながら、布袋の口を開け、中を覗く。

 そこには、拳大の真っ青な魔石が入っていた。
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